いつものように彼に生徒会室に呼び出された。
そして矢張りいつものようにメイドか執事のように雑用をやらされる。
喜緑さんの方がきっともっとずっと早く、正確にやってくれるだろうに、何故彼が僕を呼ぶのかが分からない。
それでもこうして彼に従ってしまうのはきっと彼を好きだからだ。
馬鹿じゃないかと思う。
僕は別に同性愛者では無いし、仮にそうだったとしてもキョン君や隣の部長さんの方がずっと優しいのだから二人のうちどちらかを好きになれば良いのに。
それに、女性なら良い人はもっと沢山いる。
本当に、どうして僕は彼を選んでしまったんだろうか、とそっと溜息を吐く。
それを耳聡く聞き付けた彼は眉間に皺を寄せ、不愉快そうに
「溜息は俺の居ない所で吐け」
と言った。
「…すいません」
貴方が僕を下僕のように扱うからだ、とか貴方に恋をしてる自分に呆れただけだ、とか言いたい事は沢山あったけれど取り敢えず謝っておく。
どうせ反論は認められないのだ。
する事もなくなり、ソファに腰掛ける。
彼は既に視線を机に戻していて、僕の事など見えていない。
それでもこうして呼ばれる事は嬉しい。一緒の空間に居れるだけで良いのだと思える僕は末期かも知れない。
そんな事を考えながらいつものように彼を見詰めていると、彼が顔を上げた。
メガネを外し、煙草に火を点けるその一連の動作に見惚れているとおい、と声を掛けられた。
「はい」
「お前楽しいか?」
「はい?」
「いつもいつも人の顔眺めてて楽しいか?」
「…はい」
楽しいというよりは幸せ、の方が近いけど。
そんな事を考えながらそう答えると少し呆れたような顔になる。
「アホだろ、お前」
「…失礼な」
それは確かにそうかも知れませんけど、と少しむくれて言うと、彼は珍しく柔らかく微笑んだ。
それから携帯灰皿を取り出し煙草の火を消すと、立ち上がり僕の横に座った。
「…?」
肩を抱かれ、良く分からないままに煙草味のキスをされる。
驚いて固まっていると、まるでイタズラが成功した小さな子供のように笑って、
「可愛いな、お前」
と言った。
「…っ、なっ…、そっ…」
「っぷ…」
くくっ、と口を押さえ、肩を揺らして笑うから、思わず殴ってしまった。
「殴るな」
「あっ、貴方が笑うからでしょう!」
「お前が可愛いのがいけない」
「意味の分からない事を言わないで下さい!」
真っ赤な顔で睨んだって逆効果なのは知っていたけれど、睨まずにはいられなかった。
それはやっぱり逆効果で、急に真顔になった彼に両手を掴まれる。
「な、何ですか?」
「キスしたくなった」
「っはぁ?」
彼は驚いている僕に構わず、顔を近づけてきた。
こういう時は目を瞑るのが流儀だ、と依然怒られた事があるので仕方なく目を閉じる。
そっと口付けられると同時に右手が離され、腰をぐっと引き寄せられる。
「……っん…」
舌が入ってきたから先程放された右手で思い切り彼の肩を押すがびくともしない。仕方なくそのまま彼のブレザーを握った。
それが合図になったのか彼は僕をソファに押し倒し、頭の横に腕をついた。