「アンタ達何かあったワケ?」
『え?』

唐突すぎるイヴァの問いかけ、しかもかなり怪訝そうな面持ちにドキッとした。ちなみに今は新作の衣装があると言われてイヴァの部屋にお邪魔している。


『何かって?』
「…実は結構前から思ってたんだけどさぁ?アンタと平門、なんか妙なのよねぇ…空気っていうか、でも一番最近変わったのは」
『イヴァ…?』
「アンタを見る平門の目よ」
『いつもと変わらないけど…』

とは言うものの内心驚きが隠せなかった。イヴァと平門の付き合いはきっと長いしお互いの変化とか、他人じゃ気付かないことでも察しづくんだろうなって。

いや、それでも


「あの日、」
『え?』
「蒼が平門に寝かしつけられた日。相当魘されてたでしょ?すごい汗だったしただの夢見の悪さだけとは思えなかったの。その時アイツ、“蒼を呼び戻す”って…」
『……』

やっぱり…


「その顔、多分何されたか分かってんでしょ?」
『…なんていうか、』
「いいのよ!隠さなくたって軽蔑したり白い目で見たりしないわよ。でもまさか目の前でやらかされるとは思わなかった分…こっちは気が気じゃなかったけど」
『なんか、ごめん』
「アンタじゃなくて!寧ろ平門の方よ」

なんて眉を寄せながらも若干頬が紅潮しているイヴァ。そりゃああんな現場を目鼻先で見ることになろうものなら誰だって精神衛生はよろしくないと思う。


「平門ってさ、見ての通りいけ好かないポーカーフェイスでしょ?いっつも気持ち悪いくらいニコニコして本心を悟らせないし、ここで冒頭に戻るわけだけど…もしかしてさ、」
『い、イヴァ…?』

ここにはイヴァと私しか居ないのにイヴァはぬっと顔を寄せてトーンを落としてきた。何を言おうとしてるのか…固唾を飲んで次の言葉を待つも、


「…ヤっちゃった?」
『…!』
「その顔ー…」
『ち、そんなんじゃ…!』
「アラヤダ、蒼もそんな顔するのねぇ!」
『イヴァ!』
「…うーそ、ごめんごめん。今の、気にしないで?…それにしても蒼」
『…?』
「その痣、」
『あ…』
「大丈夫、それより先は聞かないし、平門は知ってるんでしょ?」

胸の痣、そう指摘されてハッとしたけどイヴァはそこを軽く触れるだけで何も言わなかった。小さく頷けばそれならいいわ、それだけ言ってぎゅっと抱きしめてくれたけど抱きしめられる瞬間一瞬…ほんの一瞬だけ哀しそうな笑顔が目に映った。


(ごめんね…イヴァ)


…ううん、ありがとう。


まだこれは言えない。誰にも言うつもりはなかった。だけど平門にはどうしても見抜かれてしまう。

隠してることも怖かった、だけど見抜かれることの方が怖かった。
それでも見抜かれて隠してたことを吐き出した後は不思議と心の底に溜まっていたヘドロのようなものが全くなくならないことはなくても、


(……)


「大丈夫よ」
『…?』
「平門は信頼していい男よ。性格破綻してるけどね」

そんな最後の言葉に思わず吹き出してしまった。だけどイヴァが言うならきっとそうなんだろう。性格破綻含めて。


『イヴァ…ありがとう』

人の温もりは肌を介してだけなんかじゃない、そう改めて知ることができた。


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