「蒼、準備はできたか?」
『…ねぇ平門』
「何だ?」

退院の日時間通りに平門が迎えに来てくれた。傷も、時間が経てば綺麗に消えるらしい。それよりも


『何言われたの?』
「何のことだ?」
『…上層部に呼ばれてたんでしょ?』
「…全く、余計な情報はよく耳に入れるんだな」

ということは、やっぱりそうなんだ。上の方々がどんな人間なんて分からない、だけどきっと今回の件は知らないわけがないし責められるならまず間違いなく平門だ。


『責められたんでしょ?』
「それに近いことは言われたにせよこうなることは分かっていたことだ」

気にするな、そう短く言うに留まった。それに平門は自分のことは多く語らない。
知られたくないとかじゃなくて必要ないと思っているからだと思う。


『じゃあ…何を言ったの?』
「…そうくるか」
『それから平門、まだ言ってないことがあるの』
「何?」

平門が何を言ったかも気になるけど実はまだ誰にも言ってないことがある。言っていないっていうよりは、お願いに近いかもしれない。


“輪”は命を護りながらもそれを奪う存在。一度能力者化した人間は戻ることはできない、だから葬送する。

それに近い要素はないとは言えないことは私自身一番分かってる。日に日に広がる痣、蒼い血液はもはや普通じゃない。

普通じゃなければそれは異常であってイレギュラーな存在。


ガラクタは、排除されるべき。


『もし私が…』

いや、それじゃあ遅い。
その先の言葉は決まってる、だけど喉の奥でつっかえて言葉が出てくれない。


「心配するな」
『え…?』

っていうことは…平門はもう分かってる?言葉にはしない、だけど平門の目を見ればそれは言葉に表さなくても十分伝わってると思った。


『…うん』
「だがそうさせるつもりはない」
『え…?』
「…行くぞ、皆待ってる」

結局平門は上層部相手に何を言ったのかまでは聞けず仕舞いだった。だけど平門のことだ、きっと巧みな話術でその場を収めたに違いない。


その内容が私にとってどんなに卑劣で耳を疑うものだとしても…平門は正しい。


本当はそれを聞くのが怖かっただけなのかもしれない。


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