「あれ?イヴァさんさっき蒼ちゃんと一緒に居たんじゃ」
「蒼ならトイレよ」

便秘、とは思えないけど多分あの子なりに頭の中整理したいだろうしあえて何も言わないであげた。それに平門に何をされたのか問い質されたたら何をどう形容したらいいのか正直私でも口ごもっちゃうかもしれない。


「何があったんです?さっきからしかめっ面も甚だしいですよ?」
「甚だしくもなるっての!」
「……」
「何よ」
「いや、てっきりまた蹴飛ばされるくらいはしてくるかと思ったんだけど」
「今はそれどころじゃないわよ」
「ていうかやっぱり蒼ちゃん絡み?」
「じゃなきゃ平門直々に動いたりしないわよ。それに…」
「ほらまたその顔。まさか如何わしいことしちゃったりしてー?」

そんな喰のジョークじみた小言ですら笑えない。如何わしいっていうかなんていうか…蒼を呼び戻すとはいえあんなぶっとんだことを目の前でされたこっちの身にもなってほしいわよ本当…結果オーライとか言うけど。


「結果オーライじゃねぇよ平門の奴…!」
「すいませーんさっきから話が見えませーん」
「アンタに言ってるわけじゃないのよ」
「じゃあ大きな独り言?」
「…ていうかさっきからやけに突っかかってくるわね…そんなに蒼のことが気になるわけ?悪いけどアンタに蒼は触らせないから指一本たりとも」
「気になりますよ」
「!」

てっきりまた突っ込んでくるかと思ったのに案外真面目顔と声音に拍子抜け。



「どう見ても平門さん蒼ちゃんにご執心だしうちの馬鹿艇長もなんだか異様に気にかけてるし?意味が分からないうえイライラするんですよ。朔さんは僕等の母校の卒業生って言うけどどんなに調べてもそんな情報出てこないし。そんな謎すぎる子を匿う理由が俺には分からない」
「へぇ…喰にしては全うすぎる饒舌っぷりね」

なんて感心してる場合じゃない。だけど喰は興味関心がなければ根掘り葉掘り詮索するような子じゃないのは分かってる。
感心がなければ人のイイ顔引っ提げて適度な距離を保って自分の内を見せないし入れさせようとしない、だけどそこまでやったっていうことは、そういうこと。


「平門に何言われたの?」
「別に…」
あ。その納得いかないような拗ねたような声。悪いけどバレバレ。


「ただ…知るには早すぎるってさ」
「……」

それ、マジで言ったの?平門が?


(信じらんない…)


「イヴァさん?」
「まぁ…平門がそう言うならそうなのかもしれないわね。アタシ達も同じこと言われたし」
「貳組の人でも?」
「そーよ!ていうか平門が判断することは絶対だし何れ分かることになるんだから焦ったって仕方ないじゃない。だったらそれまであの子と普通に接することが一番なのよ」

現段階で蒼を一番よく知っているのも一番近しい関係なのも平門なのは分かってる。
きっと私たちに隠し…いや、まだ秘めていることはあるにしてもそれは平門自身がまだ時機じゃないと判断してるから。だから私はそれ以上何も言わない。


「うちのリーダーは絶対なの。だからそれに従うだけ」

あの子の痣のことも慢性的な不眠症も必ず裏がある、だけどそれ以上は詮索しない。



「蒼は…私たちの仲間で、家族そのものなの。今はそれでいいじゃない…」


なんて言ってみるけどそれは喰よりも自分自身に言い聞かせてるのかも。


ちょっと淋しいけど、だけど蒼は前よりもここに馴染んでいるしこれでも喋るようになった。


今はそれでいいの。この先何があろうと蒼はアタシの可愛い妹のような存在なんだから。


Psychedelic
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