忘れ物をとりに部屋に一度戻ってみてやっと気付いた。こうして客観的にみて不思議な違和感を感じる原因は生活感のないベッドの存在だった。

よくよく考えてみればここ一ヶ月私、ベッドで寝てない。


ベッドに上がっても窓辺でぼーっとしたりソファでうつらうつらとしていることの方が多くてもはや布団を被って眠ると言う概念がすっぽりと抜けていた。それとなく置いてあった鏡を見れば化粧で誤魔化せているにしても前よりも…明らかに疲れた顔になっていることは確かだ。


一人になれたのかな?


(うわ、)


ていうかこのタイミング、まさか見計らってたの?睡魔、というよりもはや眩暈に近いグラつき方に自分の平衡感覚が機能してくれない。



『!!』
「…遅いと思えば来てみて正解だったな」
『ひら、と…?』

足元がおぼつかなかった私はそのままソファへダイブするつもりでいたけど腹部に手を回されてそういうことにはならなかった。けどまた平門に変なところを見られてしまったと思ったら胸中よろしくないのはもはや言うまでもない。

けどここで意識手放す気にはなれない。


「…だいぶ顔色が良くないな」
『悪いってことね…今に始まったことじゃないです』
「に、してもだ」
『……』

向かい合うように体を反転させられて顔色を窺う平門。
やはりこの男には化粧という技術はあってもないようなものなのだ。平門も謎の女子やらマダム人気はあるらしいけどそんな彼女たちの化粧ですら…いや、やめよう。不憫に思う前にそれ以上くだらないことを考えることはストップ。


「蒼、お前あれから寝てないだろ」
『熟睡はしてないですけどまったく寝てないわけじゃないです』
「それをこの生活感のないベッドを背にして言うのか…それは気付いてほしいからか?」
『はぁ…?』

と眉を歪にさせてみても平門にはまったく通用してくれていない。でも平門の言うことにも一理あるから…そこまで大きな顔はできないのだ。


「正直に話そうか」
『さっき言ったことが全てで、す…』

何か、何かまた耳の奥で言ってるのが聞こえる。無視したいのにそろそろ無視できなくなっているのは耳鳴りと朦朧とし始める思考。

早く、


「蒼?」
『ごめ…ちょっと一人になりたい…』

平門を促すように背中を押すけど逆に私の方が後退していた。つまづいたと思ったけどそれはソファの足。そのまま腰を埋めるように座る形になってた。

「眠いか?」
『大丈夫…いつもの、』

こと。時間が経てば収まるまでは言いたかったけどそこまで言える気力もなかった。
今日はちょっと時間と労力を削るかもしれない。

…?


「少し、寝てみるか」

え?

いや、そんなことできない。だけど平門は何を考えているのか全く分からない。
それくらいいつもと変わらない表情で隣に座る平門。


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