「優姫」


近づいた気配に扉に視線を向ければ丁度
零が入ってくるところだった。


「...具合は?」

「もう大丈夫」

ぶっきらぼうに声をかけながら、
ベッドの横に座り込む。

目覚めた直後は分からなかったけれど、
私が眠らされていたのは
理事長の私的居住区にある自室だった。

一年と少し前にここを出た時から
全く変わっていない部屋に
懐かしさを感じるけれど、
あの時とはもう全く違うのだ。

何も知らずに、生きていたあの時とは...


「運んでくれたんでしょ?ありがとう...」

「いや...」

「ねえ、背中の傷は?大丈夫」

「そう、ならよかった」

「ねえ、この部屋零...」

「優姫、」


不意に強めの声音を出す零の瞳を逸らす。


「...なに?」

「くらん、」

「いやっ」

「...優姫」

困らせてるのはわかってる。
耳を手で塞いで、聞きたくない、と
浅い紫色を見つめながら目で訴えるけれど
さらりと優しい手つきで手の上に添えられた
大きな手に、ゆっくりと手を耳から退けられる。


「わかってるんだろ?」

「なにを...?」

「玖蘭枢は死んでない」


喉をまるでしめられてるみたいに、目がいたい。


見開いた目に浅い紫色は遠慮なく
心にズケズケと入り込んで、乱していく。



「なんで...」

「俺には...わかる...。
そしてお前にもわかるんだろう...?」

「わたし、は...」


心臓がどくどくと音を立てる。

一度考えたことがあった。

幾度と無く貪り合う血、
混ざり合う血と血。

まるで、自分の中の血が全部枢の血のような
自分と彼との境界がなくなりそうな。


【何千年って血を飲みあったら、体の血全部、

おにいさまのものになります?】

【さあ、どうだろう。でもいまでも、】


充分、僕の中の血は君の血と溶け合ってるよ。






「あ...」

「そうだ、お前にも、俺にも、あいつの血が流れてる」


ある意味で言う、純血種の毒ーーー。

二人にとって意味の差はあれど、
確かに流れる枢の血ーーー。


【それは、誰の中にあっても
その血の主は純血種だからーー】

【忘れるなーー
君の中にも、僕の毒が】




「そうだ、解る。」




【そう...君は《私》を感じることができるの】

【だって《絆》があるんだもの】





「そしてお前にも解るんだろ...

玖蘭枢は死んでない。」



浅い紫色が煌めいて。

苦しいよ、と叫びながらも
歓喜に震えるような矛盾する
傷ましさを感じながらも心は震えた。





枢は、生きている。





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