もしもあなたを待てるなら、
わたしはずっと待ち続けるだろう。

例えこの躰が廃れ果て、灰になるまででもーーー…






ーーーーつまるところ、【待てる】ということは
幸せなことでもあるのかもしれない。




《もしもあなたを待てるなら、》




「入るぞ」


ノックの音とともに入ってきた気配に
重い瞼を少し開ける。



「藍堂センパイ」

「そろそろ出るぞ。
ってなんだお前、寝てたのか?!」

「あ..少しだけ...眠くてつい...」

「お前は...全く。
忙しくて疲れてるのはわかるが...
これでとりあえずひと段落する。
今夜だけ踏ん張れ」


あとは僕に任せればいいからな、
っと少しだけ頬を赤らめそっぽを向く英に
優姫はホッとしたような表情をこぼす。

そう、あと少し。今夜が峠なのだ。
これを通過できれば少しは余裕が持てる。


「はい...。ありがとう藍堂センパイ」

「ふんっ、礼なんかいらないな。
僕はお前のためにやってるわけじゃないからな!」

「はいはい、わかりましたよ」


少し呆れたように笑う優姫は儚げで、
今夜は特に美しかった。
よく手入れされた躰は
指先ひとつをとっても整っており、
高級そうだが派手すぎず、
品のある仕立てのレースをあしらった
淡い寒色系のドレスはつけている
アクセサリーや手袋とも合っていて、
繊細で優美な雰囲気を醸し出している。


やはり玖蘭の姫なのだーーー
普段は粗野で乱暴で行き当たりばったりで
めちゃくちゃだけれど、
こういう時には痛感させられる。

そんな藍堂の心情に少しも気づく様子のない優姫は
座っていたソファから重い腰をあげる。

ーーーそう、すべては今日のために
この半年間があったのだから。


「お手をどうぞ、姫君」

「えっ...結構ですよ、
こわいですよ藍堂センパイ...」

「お前のためじゃない、
お前にこけられたら困る方のためだ」


あっ...と声を出した優姫は嬉しそうに笑う。

「そうですね、確かに」

優姫が転ばないように...
と低めのミュールも
彼女を気遣って選んできたものなのだ。


「ほら、いくぞ」


言葉は乱暴ながらも
歩幅は優姫にあわせゆっくりと
優しく手をひく藍堂に、
彼に見えないようこっそりと笑みをこぼした。










「おおっ、やっと来たねー」

「ごめんなさいっ、
お待たせしちゃいましたか?」

「ううん大丈夫だよ。
ていうか優姫ちゃん、
今日は特に綺麗だねー!」

「え、綺麗...ドレスですか?」

「ちがうよー、優姫ちゃんがだよ!」

「え、いやそれは...」

「そんなことないぞ一条!
せいぜい並だろ!」

「そんなこと言って、
ほんとは藍堂だってそう思ってたんじゃないのー?」

「はあ?いや、別に僕はそんな...!」


あたふたと顔を赤くして
手足をバタバタとさせる藍堂に、
琢磨はふわふわと腹黒い笑顔を落とす。
そんな二人を見つめながら、
優姫はふわりと笑みを深めた。
と、そこへ。


「あ、ほら!お待ちかねの人が来たよ!
行っておいで!」

「あ、はい!行ってきますね!」

「おい黒主優姫!」

「はい?」

久しぶりに呼ばれた少し懐かしい苗字に、
駆け寄ろうとした彼女は
足を止め振り返った。


「迷うなよ。」

いつになく殊勝な顔つきの英に優姫は
一瞬戸惑うも、すぐに笑みをのせた。

「はい、センセイ」


そしてゆっくりと彼女を待つ人のもとへ
足を向けた。




「優姫ちゃんさ...これで良いのかな...」

「良いも何も、これ以外手立てがないんだから仕方ないだろう」

「そうなんだけどね...なんだかさ、
見守ってきた身としては
いろいろ苦しくてね...。」

「...僕があいつでも、同じことをやった。」

「...そうなんだけどねえ...。」









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