それは、いきなりの再会だった。


「えっ、お父さん...どういうこと?」

父の言った言葉に、
信じられないという顔をした少女に、
父親は胸が痛みながらも
彼女が知りたがっていることを教える。


「錐生家は、全滅したって言ってたのに...」


錐生家。

吸血鬼ハンターのなかでも、
黒主家と並ぶ、名門中の名門。

だが、錐生家は四年前の事件で
純血種の緋桜閑に襲われ、
一家全員が死んだと父に聞かされた。

「零が...生きてるの?」


錐生零、そして壱縷。

二人は自身の両親もハンターである
彼女にとって、
幼い頃からの旧知の仲であった。
ーーその事件が起きるまでは。



【お父さんが北方の支部の
支部長をすることになったの】

【私ももっと向こうで修行して、
腕を磨いてくるね】


彼は昔から優秀だった。

体の弱い壱縷と対照的に、
人一倍なんでもできて、優しい人だった。

三人で修行をしたり、あそんだり。
夜刈さんのとこに預けられたことも多かった。


事件が起きた時、私自身幼く、
父に連れたち遠方にいたことから、
父から錐生家は全滅したとしか
知らされなかった。


ショックだった。

優しかったおばさんも、
銃の名手だったおじさんも、
泣き虫だけど人一倍負けず嫌いな壱縷も、

そして、優しくて優秀だった零も、
もういないのだとーー。


それから、私はそれまで以上に腕を磨いた。

そして、17歳になった今、
北方の支部長の娘として成果を上げ、
本部である協会に呼ばれることとなった。


「...いままで黙っていて悪かったな。」

「.......」

「だが、言わなかったのはお前のためだ。」

「.......」

「零はもう、昔の零じゃない」

「...どういう、こと...」

「彼は変わってしまったんだ」


怪訝な瞳で見つめる娘に、
父は残酷な真実をつぶやく。




「彼は緋桜閑に咬まれたんだ。」











「やあ、よく来たね」

「...お久しぶりです、黒主のおじさま」

「そうかしこまらないで。
君のお父様が北方の支部長になられて以来だね」


にこにこと笑う人物に彼女は見覚えがあった。

黒主灰閻ーーこの学校の理事長にして、
ハンターの名門、黒主家の最後の一人。
そしてハンターとしての一時代を築いた
ハンター協会の重鎮とも呼べる人だった。


「君とっても優秀なんだってね!!
協会が欲しがるわけだよー!!」

噂はたくさん聞いてるよ、
さっ冷めないうちに飲んで飲んでっ

と、差し出された紅茶に口をつける。


「でもまあ、驚いたよ...
君が学園にくるなんて...」

「...視察ですから、零が人間かどうかの。」

「そんなこと言わないでよっ!
ちっちゃい頃は仲良しだったんでしょ?」

「......」

「まあ、君も大変だとは思うけど...
零に関しては、君の好きにしてくれていいよ」

「...わかっていますよ、
ナイトクラスに関しては、私は関わりません」

「ほんとー?なんかごめんねー。
一応ナイトクラスの級長には、
君が来ることは伝えてあるから!」

「それならいいんです。
私自身、無闇にヴァンパイアに
関わる気はありませんから。」

「...ちょっと君、なんだか冷たくなった?」

「そんなことありませんよ」

「そーお?」


コンコンッ

「理事長、入りますよー?」

「おおっ、ゆっきーきてくれたんだねっ!!」

「校内放送で呼んだくせに
何言ってるんですか!!」

理事長に入ってきた少女を見る。

白い肌に、ダークブラウンの髪と
瞳が印象的な少女だった。

「この子が僕の愛娘で
風紀委員の優姫だよー!!」

「ちょっ、理事長放して!!うざい!」

「はじめまして、優姫さん」

「あっ...はじめまして」

あたふたしたように頬を赤く染める彼女。
可愛らしくて小柄な少女だ。
...こんな子が風紀委員を?


「じゃあ優秀、編入生の牧原栞さんを
教室まで案内してあげて」

「はい。牧原さん、行きましょう」

理事長室を出る直前、理事長と目があう。
彼はウインクを一つして扉を閉めた。







「はい、ここが私たちの教室です!」

案内された教室は広々としていて、
中には休み時間を楽しむ学生たちが騒いでいた。

だがその中に、
わたしの目的の人物はいなかった。



「いままでは、療養してたんですね」

「はい...本当は皆さんと同じように、
入学する予定だったんですけれど。」

でも寮生活できる程度に回復したので、
やっと入学できたんです。と告げれば、

そうなんですね!よかったですね!
と可愛らしい笑顔を見せる彼女。

「ねえ、優姫さん。
私たち同い年でしょう。
敬語はお互いやめません?」

「えっ!じゃあ、栞さんそうしましょう!
呼び捨てにしていいかな?」

「もちろん」

本当は同い年ではない。
私は実は彼女の一つ上だ。

だが零の監視を近くでするために、
彼のクラスに入りたかった。

そして、名前も実は違う。
零にすぐに正体がばれぬよう、
名前も仮名なのだ。

...もう6年ほど会っていない。
零は私に気付くのだろうか。


「じゃあ、栞は授業は明日からだから、
とりあえず寮に案内するね!」

荷物はもう運ばれてるはずだから、と
楽しそうに笑う優姫につられ、笑みを浮かべる。

あの黒主灰閻に養子がいると聞いたときは
とても驚いたがーー、

この子は素直で良い子だな、と感じた。








「ここが、栞の部屋」


案内された部屋は綺麗に片付いていて、
ちょうど陽の光が差し込んでいた。


「一人部屋?」

「そう!理事長が慣れるまでは一人部屋の方が
体調的にもいいんじゃないかな、って」

「そう...あとで理事長にお礼を言わなくてはね」

「いーのいーの、気にしないで!」

そう優姫は笑いながら、窓を開けた。

「わ、ここは栞ラッキーかも!」

「ラッキー?」

「うん、ここから校舎が見える」

「なんで校舎が見えるのがラッキーなの?」

窓から上半身を軽く乗り出し、
校舎を眺める優姫に声をかける。

...たしかに見やすい。

この部屋は3階の端だが、
ちょうど校舎までの視界を遮るものはなく、
こちら側の校舎の中はよく見えた。


「あっ、あそこの端の教室あるでしょ?
あそこの教室は
いつもナイトクラスが使うから...」

「だから...?」

「あ、その、ナイトクラスって知ってるよね?」

「ええ...入学案内や学生証の中に
記載されていたのを見たわ」

実はナイトクラスの正体も知っているけど。
と脳内でつぶやきながら、
優姫の話に耳を傾ける。

「そっか...。
ナイトクラスってね、優秀なだけじゃなくて、
実は容姿もすっばらしくいいんだよねえ...」


だから実はデイクラスには
ファンがすごく多くて、
みんなナイトクラスを見ようと
執念がすごくて、
いつも校舎の入れ替え時とかは
すごいことになるの。

そう真剣な顔でつぶやく優姫。


「そうなのね。風紀委員も大変ね。」

「うーん、まあ仕方ないんだけどね...」

「...風紀委員って、もう一人いるのよね?」

「そうだよ!
そいつが零って言うんだけど...って、あ!!!」

急に窓の外を見ていた優姫が、
大声をあげ、外を指差す。


「ちょっと!!零!!!」

そこにはちょうど寮の前の道を歩いていく
背の高い男子生徒の姿があった。

...零。


「ごめん栞!ちょっと私零のとこ行かなきゃ!」

あと荷物の整理でもしてて!
寮長が夕方に来るはずだから!

そう叫ぶと彼女は窓から飛び降りーー、


「優姫!?」

「大丈夫だよ!ごめんまたあとで栞!」

見事な身のこなしで綺麗に着地し、
下からこちらに笑顔を向け走り出す。

...ここは3階...
さすが黒主灰閻の義娘と言うべきか...

化け物じみた運動神経に感嘆しつつも、
彼女は目標に追いついたようだった。

零を叱っているらしい声がうっすらと聞こえ、
零もまた彼女の話を足を止め
聞いているようだった。


...まるで昔の私たちみたい。



【零は壱縷に甘すぎ!】

【...うっせえな】

【壱縷ももう少し零任せにするのやめなよ】

【...うるさいよ、耳がキンキンするからやめて】

【ちょっと壱縷?まだ課題は終わってないわよ】

【誰かさんが怒鳴るから頭痛くなった】

【大丈夫か、壱縷】

【ちょっと、仮病なんてやめなさいよ】




「...懐かしいな」

無意識に溢れた自分の言葉に驚きつつ、
視線を二人に戻す。


...あ。


なにやら説明しているらしい優姫が
こちらの部屋を指差し、
零の視線がこちらに向く。

浅い紫と目があう。



だが、目があったのは一瞬で
すぐにするりと視線ははずされた。

...気づいたかな。


彼は昔から優秀だったし、勘の鋭い人だった。

今回の任務も、彼にわたしだと気づかれても
構わないと思って行動している。

...気づかないなら、
気づかないでもいいのだけれど。


昔よりも背の大分伸びた銀髪が
小柄な少女と去っていくのを見届け、
窓を閉じた。




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