草園瑠佳は、イライラしていた。





...また今日もいるわ。


扉が開いた瞬間、
キャーキャーと群がるデイクラスの女子たち...

ではなく彼女をイライラさせている人物は、
他の人であった。


大騒ぎするデイクラスを必死に小さな体で
抑えようと奮戦する風紀委員ーー黒主優姫。

この学園の理事長の愛娘であり、
そしてーーー、


「大丈夫?優姫」

彼女の敬愛してやまない、
玖蘭枢の大のお気に入り。

目の前で毎日と言って良い頻度で行われる
普段見せることのない笑顔を向ける枢と、
それに恥ずかしそうに無邪気に接する優姫。

それは瑠佳にとって耐えられないことで
多大なストレスを生み出す原因だった。


ーーこれはお気に入りという言葉で
片付けられる問題なのだろうか。

入学する少し前の時のことを思い出す。


枢は彼女の血に飢えていた。


人間を吸血鬼に変えてしまえる牙を持つ彼は、
その特別さをよく理解して振る舞う人なのだ。

そんな彼がーー、
本気と言って良いほど
彼女を本当に噛もうとしていた。



だからこそ、枢様の血はもらえずとも、
私は血を吸っていただけたのだけれど...

枢様の想う少女のおかげのようなもの、
と思うと嫉妬心や腹立たしさも同時に感じた。


一時期はもしかしたら枢様は
ロリコ...いえ、自分より下の年齢の方が
好きなのかしら...とも考えた。

だけれど、そんな身振りは行動は
やはり優姫に対してしか
見ることができなかった。

そのことによかった違うんだわ...!!!と
安堵するとともに、
やはり彼女を特別に思っていらっしゃるのね、
と居た堪れない歯痒さを感じた。



そして風紀委員が高校に入って以来、
毎日続いた二人の交流に、
瑠佳のイライラはギリギリまで
高められていった。


見なければ何も感じずにいられるが、
見たら最後嫉妬心やらなんやらで
心は大海原の嵐のような状態だ。






ーーーそしてそれはある日、
とばっちりのような結果として
勃発してしまった。


そう、あの事件がーーー。




「来いよ吸血鬼。
ちょうど、イラついてたところなんだ」

ーーー時間は数時間前に遡る。





* * *



枢様と二人でいられるなんて...
なんて光栄なことなのかしら!!!



枢が理事長に会いに行くと言うので、
自ら志願し、珍しく二人きりになれたことを
純粋に瑠佳は喜んでいた。

普段はキャーキャー騒がれて、
周りには気付かずに寄せられる眉間のシワも、
今日は全く現れなかった。



別段、枢は二人きりだからと言って
たくさん話してくれるわけでもなく、
むしろ沈黙を保って歩き続けるだけだけれど、
それでも瑠佳には嬉しくてたまらなかった。



なのに、

「錐生くん、体調はどう?」


体調はどう、ですって?

そんなお言葉私はかけられたことはないわ...!!




たまたますれ違ったのは風紀委員の片割れ、
ハンターの家の出身の錐生零だった。

普通の人間である優姫とでさえ、
枢が大切に扱うのを身分違いだ羨ましいだ
あーだこーだと感じる瑠佳にとって、

優姫以上にハンターである零が
枢に気遣われる(?)ことによって、
彼女の堪忍袋の尾が切れた。



...もちろん、彼女以外は
枢が気遣ったなどとは
誰が見ても思わないだろう。

そして、今に至る。





「...枢様はなぜこんな人間に目をかけるの...
許せないわ」



靴に画びょういれてやるから!!なんて
副音声が似合うような構図で、
彼女は錐生零に対峙していた。

呆れながらも心配そうな雰囲気で傍らに立つ
幼馴染の気配を感じながらも、
瑠佳は今更やめられないほどイライラしていた。


わかっているのだ。本当は。

零が枢に目をかけられるのが気に入らないのも
確かに真実である。

だけどそれ以上にーーー、


「ちょっと待ったあ!私闘は禁止!
生徒手帳にそう書いてなかった?」

人間離れした体つきで
零とナイトクラスの間に滑り込んだ優姫に
瑠佳は嫉妬心が芽生えるのを感じた。


本当はやはり優姫に嫉妬しているのだ。
枢に愛され、大切にされている彼女に。

だけど枢の大切な人は傷つけられない。


だからこうやって関係のない零に
なかば八つ当たりのように因縁づけているのだ。


「...そうね、なんだか気がそれちゃったわ」


優姫が来てしまった以上、
彼女を傷つける可能性のあることなどできない。


それは純血種である枢が大切にする少女は
貴族として自分もそうならうべきでもあるし、

それ以上に自分の大切な人が
大切に扱う宝物に、
傷つけることなど自分にはできないのだ。


ちらり、と優姫を振り返り見る。

そこには零と佇む二人がいて、
それを認めた瑠佳は校舎へ向かい歩き出す。

その隣には、いつものように暁。


「...もう、八つ当たりで
錐生を呼び出したりなんかするなよ」

「...わかってるわ。もうしないわよ...」



そう、彼女を傷つけることは枢が悲しむ。
そんなことはできない。

ーーーそして、零が傷つくことは、
彼女が悲しむことでもあるのだ。




ーーー枢様を傷つけたり、悲しませる者は
私は許しはしない。

そして、誰にもそんなことはさせないーー



瞳の奥に映る鮮烈な漆黒と時折煌めく紅に、
瑠佳はそっと誓うのだった。



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