「ーーー帰って。」



地下高速鉄道を3回ほど乗り継ぎ、
六時間ほどかけて着いた邸で聞いたのは
彼を全身で拒絶した言葉だった。




「優姫...」

「あの時は...ごめん、思わず噛んでしまった」

「優姫、」

「依砂也さんのところで、記憶を奪ったことも
悪かったと思ってる...ごめん」

「優姫」

「それだけ言うつもりだった。
だから、もう帰って」



半年ぶりに見た彼女は最後に見たときよりも
髪が少し伸びて胸元あたりにゆれていた。
ゆったりとしたシルエットのワンピース、
低いミュールとショールを引っ掛けて、
怒ったような表情を浮かべていた。


「優姫、俺は...」

「本当にごめんなさい。
私はもう話す気はないから」

来てくれてありがとうでも、もう来ないでね。

そう呟いて開きっぱなしの玄関へ舞い戻る優姫。

その二人を玄関の奥から心配そうに
見守る瑠佳と暁。


「お前が話を聞いてくれるまで帰らない。」

そう呟いた零を一瞬振り返った優姫は

「どうぞ。でも私は話すことなんてないから」

そっけなくつぶやき、玄関を勢いよく閉めた。


ガチャリ、と鍵をかけため息をつく俯く
優姫に瑠佳と暁はため息をつく。

「...あの返し方はひどいんじゃないかしら。」

折角六時間もかけてきたのに、
面会時間がたったの数分であれでは、
いくらなんでも零が哀れすぎる。

少し非難のこもった瑠佳と暁の視線に、
優姫は顔を上げた。

「...そんな顔をしてるなら尚更、
ちゃんとお話したら?」

優姫の表情になんとも言えない気持ちを
抱く二人。
口には出さないだけで、暁も同じように
感じているのだろう、と瑠佳は感じた。


「ほんとは来てくれたこと嬉しいんでしょう」

「別に、嬉しくなんかないです...」

「あら、そんな表情でよく言うわね。」

う...と黙り込む優姫に、
瑠佳は優しい瞳を向ける。


「でも、話したら...なんか、
零を頼ってしまいそうで...」

「別に、男なら頼られても嬉しいと思いますよ」

「でも...零には幸せになってほしいから...」


これ以上私に付き合わせたくない、と
零れた言葉に、二人は戸惑いながらも
理解はできた。

彼女は恐れているのだ、彼を自分の人生に
巻き込むことを。

確かに彼と彼女がともに歩いて行こうと
するには、障害は数え切れない。

そうすることで、彼が不幸になるのではないか
と彼女は危惧しているのだ。




やっぱり、似てるのね...

自分のことよりも相手の幸せを願って、
行動してしまう。

相手が幸せであれば、それでよいと。
どこまでも自分に無頓着な黒髪の青年を
思い出して、瑠佳は切なくなる。


と、同時に、彼女はきっとそうやって
自己犠牲の上に与えられる愛情の切なさを
知っているだろうに...と歯痒くも感じる。



「でも...」

「いいんです、もうこれで!」


少し強引に話を終わらせ、
リビングルームに向かう彼女に
瑠佳と暁は溜息しかでてこなかった。



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