「また殺したの?」
「また、って言わないで」
「はは。これで三人目だね」
「……もういい」

ぷいっと顔を逸らすメグの幼い仕種に、イルミは思わず笑みが溢れる。しかし彼女の背後にはその状況に似つかわしくない惨殺死体が転がっている。

「今度はどうしたの」
「イルミに関係ない」
「冷たいなー。いつも片付けるの手伝ってあげてるだろ」
「……私、ハグなんかもう一生出来ないかも。また良い雰囲気になったら……彼が死体に、なってたから。……最悪の気分」
「そうなんだ」
「ていうかさ、なんでいつも現場に来るの?ストーカー?」

殺しの後のメグはいつになくピリピリしている。普段は優しく、滅多に怒りもしない彼女の歯に衣着せぬ物言いは珍しく、イルミはこの時間も嫌いでは無かった。

初めて殺した時には半狂乱で叫び、警察に自首をすると言って聞かなかった。そんな彼女を宥め、側に置き、説得したのもイルミだった。殺しを生業とするイルミにあの手この手で言い聞かせられ、彼女の価値観もまた少しずつ歪んでいった。

「いつから男性恐怖症になったんだろう。別に切っ掛けもないんだよ。しかも、いつも殺した時の記憶が無い。やっぱり変じゃない?」
「その男がよっぽど虫酸が走るような奴だったんじゃないの」
「……言いたくないけど、もう三人目だよ。多いでしょ」
「じゃあ、メグの見る目が無いってことかな」

笑い混じりに言われた言葉に、彼女は顔を顰める。

「良い人だったよ。ちゃんと好きだったよ」

イルミの眉がぴくりと動く。

「好きだったのに、」
「好きじゃない」

被せるように冷たく言い放つイルミに驚き、メグは押し黙る。
その瞳はゾッとする程に暗かった。

「好きじゃないから、殺したんだろ」

イルミは彼女に言い聞かせるように低い声で続ける。

「あ……そう、かもね……。ね、ねぇ怖いよイルミ……」
「ごめんごめん」

彼女の言葉に、パッと雰囲気を変えて僅かに笑みを浮かべるイルミ。先程の不機嫌そうな態度が嘘のように、いつも通りの平然とした様子だ。元通りになったイルミを見て、彼女は少し安心する。

「……好きとかもうよく分からないけど、普通に恋愛したいだけなの」
「じゃあ俺と付き合ってよ」
「なんでそうなるの」
「俺ならメグには殺されないよ」
「でも、殺そうとしちゃうのは変わらないでしょ……」
「大丈夫。俺はそれでも、好きだから」

ぐっと顔を近付け、真剣な目をするイルミ。それまでは軽口だと思っていたメグも、その様子に思わず顔が赤くなってしまう。

「……私のこと、好きなの?」
「そうだよ。好き。だから付き合って」

おずおずと質問すると、そう力強く返された。

「最初は俺のこと好きじゃなくても良いよ。その分、俺が愛すから」

まだ状況を呑み込めていない彼女に、イルミは畳み掛けるように言葉を続ける。

「それに、もしメグが俺のことを殺そうとしなければ、俺のことが好きってことだし。いいだろ?」
「……そうなのかなあ」
「そうだよ」
「そっか」

イルミは常々彼女に、「いつの間にか殺してしまうのは心から愛していないから」という彼の価値観を語る。彼女としては半信半疑、そんな単純な話なのだろうかと納得出来ないでいた部分もあったが、繰り返されるその話にいつしか同調し始めていた。そして、メグの罪を責めることは一切無く、それどころか事件の発覚を防ぎ、精神的にも支え続けるイルミは自分の一番の理解者であり、その彼が言うことは正しいのではないか……という思いすら、無意識の内に抱くようになっていた。

「あのね、こんな私の側にいてくれて、受け止めてくれるのはイルミだけだよ。いつも感謝してたの。だから、イルミと一緒にいたいな」

そう言ってはにかむメグを抱き寄せ、イルミは頭を撫でる。自分の悪癖が出るのではないかとグッと身体に力を込めた彼女だったが、次第にイルミに身を委ねた。イルミはその頭から、ズズ、と小さな針を抜き出す。

「……あれ?なんか、変な感じ……」
「安心したんじゃない?俺のこと殺したいなんて思わなかっただろ」
「うん……思わなかった」

ゆっくりと目を閉じた彼女は、小さく言葉を零す。

「そっか。イルミのことは本当に好きだから、大丈夫なんだね」

それは、イルミが望んでいた言葉そのものだった。


始まりは一年半程前だった。
イルミからの好意にも気付かず、ある日「好きな人がいるの」と照れ笑いを浮かべた彼女メグ。その男を殺したい、とイルミは咄嗟に思ったが、そこで思い付く。

(メグの手で殺させよう)

そうして、迷わず針を刺した。
彼女を手に入れようとする自分以外の男が、彼女の手によって殺されるように念を掛けて。
それからは殺害現場には必ず駆け付け、彼女のメンタルケアをし、悩みがあると言われればすぐに相談に乗った。殺しとは無縁だったメグが自らの手を汚したことは、ゾルディック家の暗殺者として仕事をするイルミにとっても好都合であった。そして、誰よりも近くにいて、彼女を支えた。メグが今回イルミとの交際を受けたのは、彼女からの好意も少なからずあるからだとイルミは自負していた。

「イルミの言った通りだったね」

そう言ってイルミの腰に手を回す彼女によって、現実に引き戻された。なんであれ、彼女はもう自分のものだ。

「だからずっと言ってただろ、相手はちゃんと選べって。俺のことが好きだったんだよ」
「私って馬鹿だね。すごく遠回りしちゃった」
「いいよ。遠回りしたのは俺も同じだから」

不思議そうな顔をする彼女に「なんでもない」と小さく応えると、イルミは喜びを深く噛み締めるようにゆっくりとキスをした。

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