「あ、そうだ。これあげる」

会ってから数時間。思い出したようにゴソゴソと鞄を乱雑に探ったメグは、半透明のラッピングに包まれたチョコレートをイルミに渡した。

「ふーん。忘れてるのかと思ってたよ」

礼も言わず、引ったくるように素早く受け取ったイルミはジロリとメグを一瞥する。そう、今日は二月十五日である。そんな彼に動じること無く、彼女は可笑しそうに笑った。

「忘れてないよ!ちゃんと買ってあったの。本命!」
「……本命ならちゃんと当日渡せば?」
「だって、元々今日会う予定だったでしょ。一日違いだから別に今日でも良いかなって」

それが何?と言いたげな彼女の態度に、イルミは大きな溜め息をついた。

「そもそも今日渡すつもりならさ、こんな夕方じゃなくて会った時に渡せば良いよね。なんなの?忘れてたわけ?」
「イルミってさあ、意外と細かいことにうるさいね」
「は?」

ゴゴゴ……という音が聞こえてきそうなほど威圧的な雰囲気を出す彼に、(あ、地雷踏んだな)とすぐに悟る。

「ごめんごめん、次からきちんと渡すから。ね?」

メグはすぐに白旗をあげ、自分なりに可愛く小首を傾げてみたりする。こういう時に揉めてしまうと、イルミは本当に面倒なのだ。付き合ってからそれほど長い期間は経っていないが、そのことは彼女にも十分過ぎるほどに分かっていた。

(イルミはバレンタインなんて興味無いかと思ってた。いつも無表情のクセしてロマンチストなんだなあ)

そんなことを考えながらイルミをチラリと見ると、彼はいつもと変わらない読めない表情でチョコレートの箱を見つめている。心なしか機嫌が良さそうにも見える様子に、これ以上余計なことは言わないでおこうと彼女はそのまま口をつぐんだ。

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