とん、とん、とん。 夜更け、メグは静かに広い階段を昇って行く。階段の先には大きなアーチ橋がある。ここが彼女のお気に入りの場所だった。
橋の真ん中まで歩き、その欄干に手を掛ける。 ここから見える大きな川、その奥に見えるライトアップされているもう一つの橋、その全てをメグは気に入っていた。
冷たい夜風が彼女を攫うように吹き付ける。少し身震いしながらも景色に見入っていると、突然力強く肩を引かれて振り向かされた。
「メグ」 「あれ?フェイタン。どうしたの?」
そこには、少し焦ったような様子のフェイタンが立っていた。
「……自殺でもする気かと思たね」 「あはは、そんなんじゃないよ」
メグとフェイタンとは仲良くしている方ではあったが、まさかこんなところに来るとは思わなかった、と内心驚く。そして、密かに想いを寄せる相手であることにも、彼女は心臓を高鳴らせていた。
「それにこんな夜中に一人歩きは危ないね。死ぬつもり無いなら尚更よ」 「それもそうだね。でも、ここの景色がすごく好きで」
ふうん、とフェイタンは素っ気ない返事をするが、すぐにメグの隣に来ると一緒に景色を眺めた。
「ね、綺麗でしょ」 「悪くないね」 「うんうん、フェイタンの褒め言葉だね」
素直に綺麗だ、とは言えない自分のことをよく分かっている。フェイタンは満足そうに頷いた。そんな彼女のことを、フェイタンも愛しく思っていた。
「ここにいると、悩んでることも苦しいことも忘れられるの」
ぽつり、とメグは呟いた。
「……悩んでることあるなら、ワタシが聞いてやる」 「え?フェイタンが?」
彼女は目を丸くして、意外そうな表情をした。 別に、嫌なら言わなくていい、とそっぽを向いてしまったフェイタンに慌てて声を掛ける。
「まさか!嬉しいよ。 でも、お高いんでしょう?」
ふふ、と悪戯っ子のような笑みを浮かべたメグは楽しそうに笑っている。
「メグは特別よ。この景色が代金で良いね」
またしても、意表を突かれたとばかりに彼女はパチクリと瞬きを繰り返す。
「……ありがとう。また来る時は、誘っても良いかな」 「当然ね。他のヤツ誘たら殺すよ」 「フェイタンだけだよ」
ここの景色は、フェイタンと見るの。 そう言って笑う彼女が、フェイタンには何よりも美しく見えた。
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