アカギが居候するようになって、既に二ヶ月が経とうとしていた。
「矢木さん、俺にも飲ませてよ。まだ残ってるんでしょ?」
「ガキに飲ませる酒なんかねえよ」
なんだ、つまらないな、と呟き、アカギは俺が酔い覚ましに用意した水をゴクゴクと飲み干してしまった。脇腹を小突くが、ニヤリと笑うこいつは本当に可愛くない。
嫌がらせばかりするのかと思えば、夕食の支度(という程のものは作らないが)を手伝ったり、気紛れに金を置き『生活費』などと言い出す。自分を失職に追い込んだ子供相手に情けない話だ。それでも一緒に暮らしているのは、行く当てのない子供相手の情けだけではないと心の何処かでは気付きつつあった。
「ねぇ、キスしたい」
そんな風に付かず離れず暮らしていたアカギが、何故そんなことを言ったのか。そしてそれを何故してやろうと思ったのかはわからない。……どちらも考えるべきではないような、気がした。
アカギの腰を抱き寄せ、口付ける。アカギは一瞬体を強張らせたがすぐに体を預けてきた。
──あぁ、なんなんだこの状況は。
冷静に考えれば本当に可笑しな状況。しかし、俺はこのなんともいえないムードに呑まれつつあった。
自分はこんなにも流されやすかっただろうか?
「ん、ぁ」
いつの間にか舌をねじ込んでいた。アカギの歯列をなぞり開かせ、舌を絡める。
相手もそれに応えようとしてくるが、そのぎこちない動きに気持ちが昂ぶるのを感じた。
暫くその初々しい口付けを堪能し、最後にアカギの唇を軽く舐めて顔を離す。
「は、矢木、さん」
名前を呼ばれて、何故だかドキリとした。
── 早く、早く離れろ。
そうでないと、どうなるかわからない。いや、どうなる、って、なんだ……?なんて考えていると、アカギがふっと笑った。
「これだけ?」
「あぁ?」
「だからさ、」
すっとアカギの細い腕が伸ばされる。そしてそのまま、ゆるゆると服の上から自身を撫でられた。
「こういうこと」
背筋がぞわりとした。目の前のアカギがいつもと違う雰囲気を纏っている。そしてその雰囲気は、決して嫌なものではなく……。
「な、に言ってんだ、触んな」
「本当はしたい癖に」
「馬鹿、いいから退けよ」
「……嫌なの?」
耳元で酷く熱っぽく囁かれる。
このままヤっちまうか?
そんなことを考え、冗談じゃないと自問自答した。
居候させてしまった時もそうだ。この悪魔のペースに乗せられたら最後、どんなことになるかわからないのだ。また馬鹿を見るのはごめんだ!これ以上踏み込ませるな、振り回されるな!
「……っ大人をからかうんじゃねぇよクソガキ!」
思い切り突飛ばしてやった。
それなのに、当のアカギはヘラヘラ笑っている。
「俺は本気なのにね。わかってないな、矢木さんは」
「いいからもう寝ろよっ……!」
「うん」
やけにあっさりと引き下がるアカギに、なんとなく拍子抜けしてしまう。いつもは何を言ったって言うことを聞きやしないというのに。
「おやすみなさい。続きはまた今度」
続きなんてしねぇよ!
そう言ってやりたかったのに口に出来なかったのは何故だろうか。
……やはりこのガキは、気に入らない。