「ただいま」

「カイジおかえり!遅かったじゃん。俺もうシャワーも浴びて準備バッチリだからよっ……!」


疲れた様子で部屋へ入るカイジを、明るい声が出迎える。その言葉と、ベッドに腰掛けた和也が見せ付けるようにヒラヒラと振ったコンドームを見て、カイジは一気にげんなりしてしまった。


「……あー、悪い。今日は疲れてんだ」

「ちっ。だからバイトなんか辞めればいいのにさぁ……どうせショボい給料なんだし」


和也のその言葉にムッとしながら大股で和也の待つベッドへ向かい、その側にどさっと乱暴に荷物を落とす。


「お前に何でもかんでも金出させてたら、俺の中の大事な何かを失う気がするんだよ……!」

「カカッ!今更カイジが失うもんって何だよ。なぁ、一回だけって約束するからしようぜ」

「はぁ……そんな溜まってんのかよ?人のケツ毎日好き勝手使って……たまには自分で抜いておけっての」

「……じゃあオカズにするけど、いい?」


何かを思い付いたかのようにニヤニヤとする和也。それに気付かず大きな欠伸をしたカイジは面倒臭そうに答える。


「はいはい……勝手にしろよ、俺もう風呂入って寝るから……」


そう言ってくるりと背を向けたカイジの腕が力一杯引っ張られる。「うわぁ!?」というカイジの情け無い叫び声を和也は聞き流し、腰掛けていたベッドに組み敷きスーツのポケットに手を入れた。そこから取り出されたのは手錠だった。


「俺、良い事思い付いたんだよね」

「何で手錠なんか持ってんだよ!」

「たまにはいつもと違うプレイしようと思って持ってきたんだよ。ま、当初の予定とは違うけどこれはこれで楽しくなりそうだ……!」


暴れようとするカイジの右手をサッと捕まえ、そのままガチャリとヘッドボードの柱へと繋げてしまう。右腕だけ大きく上げられた状態だ。ガチャガチャと大きな音を立てて手錠から抜けようとするカイジだが、当然そんな程度では外れる筈もなかった。それでもジタバタとする腕を軽く抑えながら、和也は顔を近付けていく。

そして、腋をぺろりと舐めた。


「ひぐっ!?な、あっ、」


驚きのあまり引き攣ったような声を出し、カイジはその大きな目を更に見開く。


「んー……やっぱりしょっぱいな」

「な、にしてんだ気持ち悪ぃ……っ!良い事ってこれかよ!?」

「オカズは黙ってろっての」

「オカズって……!もう寝るって言ってんだろバカッ!」


繋がれていない左手で頭を退かそうとするが、簡単に押さえつけられてしまう。そして和也は再び顔を近付けると、黒く茂る腋毛の中を探るように舐め始める。顔に毛が当たるのを感じながら、すぅっと独特の臭いを嗅いだり舌で突ついてみたりする。


「ちょ、ひ、くすぐったいって……」


擽られるかのようなその刺激に笑ってしまうカイジだが、時間が経つにつれその笑い声は聞こえなくなっていった。ピクンと身体を揺らし、低く抑えた声だけが響く。

夢中になって腋に顔を埋めていた和也がそのことに気付いたのは、少し経ってからのことだった。静かになったものだ、と様子を窺うと、上気した顔が目に入る。少しばかり息を荒くし、オロオロと視線を彷徨わせるカイジ。もしかして、と思った和也が下を向くと、居心地が悪そうにモゾモゾと動くカイジの下半身があった。

これは本当に面白いことになってきた。キキキッ、と和也は笑い、すっと目を細める。


「カイジ、興奮してんの……?」

「ぐっ……、んなわけ、ねぇだろっ」


カイジはピタッと下半身を動かすのを止めたが、図星だと白状しているようなものだった。しかし、和也はそれに気付かないフリをした。


「ふーん?じゃあちんこも触らなくていいよな?」

「え……」

「もしカイジも興奮してるなら可哀相だから弄ってやろうと思ったのになっ……!」

「ううぅっ」


そうして和也はまた腋を弄り始めた。くいっと軽く腋毛を引っ張ってみたり、チロチロと舐めたり、ぴちゃぴちゃ音を立ててみたりと、遊ぶように責めてはカイジの反応を楽しむ。このいやらしい雰囲気に流されたのか、それとも単に舐められた快感からなのか、カイジの性器は既に緩く立ち上がっていた。カイジ自身もそれを自覚すると、より一層和也からの刺激を意識してしまい思わず熱い吐息が漏れてしまう。




それから数分程経った頃。
カイジの腋に顔を埋めている和也は、いつの間にか彼のペニスを擦っていた。それに気付いたカイジは一瞬動揺するが、これはあくまでも「和也のオナニー」として始まったものなのだと思い出し、人の身体をこれだけ使っておいて……と、何とも言えない気分になる。

確かに快感は感じている、しかしそんなことを言える筈もない。いっそ早く出して終わってしまえ、と歯を食いしばって和也を見ていたカイジだが、小さく声を漏らしながら自慰をする姿に鼓動が早くなるのを感じていた。



『……気持ち良さそ……』



「は、ぁ、羨ましいの……?」


視線に気付いた和也が尋ねる。カイジは肯定も否定もせず、ただ見つめ返すことしか出来ない。


「左手は動くだろ」


和也は自慰を止め、カイジの左手をまだ一度も触れられていないペニスへゆっくりと導いた。触れるか触れないかの位置にポンと置き、「ほら、」と促す。解放を待ち望む下半身はそれだけでピク、と反応する。しかし射精への期待と欲が高まるペニスとは対照的に、導かれた左手は動かせない。腋を舐められながら自慰をするのだと考えると、どうしても動けなくなってしまうのだ。しかし和也の少し掠れた声、熱っぽい瞳、荒い息を感じると、普段のセックスを思い出させられ、更なる快楽を求めようと自然に手が伸びていく。


「くっ、ぅ……」


利き手ではない少しぎこちない動きがもどかしく、堪らない。視線を下げれば和也も自慰を再開しているのが見えた。


「ふ、ぅあ、かず、やっ」


名前を呼ばれた和也はチラリとカイジに視線を送る。カイジの気持ち良さそうな表情の中にはほんのりと羞恥が浮かんでおり、それが和也の腰に甘い痺れを感じさせた。もっと乱したい、とカイジの身体をいつものように愛撫したくなるのをぐっと堪える。お預けにされて自ら慰め始めるカイジなどなかなか見られるものではない。それに、こんな風に腋を舐めて許されることなんてもう無いかもしれない。そう考えると、この機会に堪能しておこうと再び窪みへと舌を伸ばした。

毛をなぶるようにして大きくべろりと舐め上げると、カイジの身体は大袈裟にビクンと跳ねる。ハァハァ、と荒く息を吐き出しながら強請るように和也の目を見つめるカイジは、どんな些細な刺激ですら欲しいと思う程に焦れていた。


「和也、イく、イきそ、」

「カイジッ……カイジッ、俺も、もう、」


お互いの名前を呼び合いながら、ペニスを擦る手は速くなる。小さな呻き声と共に和也が射精すると、それに釣られるかのようにカイジもすぐに精を吐き出した。




カイジが絶頂の余韻に浸っていると、頭上で小さな音がし、手錠が外されたのに気付く。そのまま起き上がって右肩をぐるぐる回すと、呆れたように和也を見た。


「お前ほんと……意味わかんねぇことするよな……」


少しの痛みと熱を持った右手首を軽くなぞり溜め息を吐くが、和也はそんなカイジを意にも介さずベッドに寝転ぶ。


「俺もカイジも気持ち良くイけた上に、ケツも休められたじゃん。案外悪くなかっただろ?」


その言葉に顔を赤くしたカイジは、気まずそうにベッドサイドのティッシュ箱を取り、楽しそうに笑っている和也に押し付けたのだった。


×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -