「ケーキいかがですかー!」

「…………」

「ちょっとカイジさん、ちゃんとやって下さいよ!帰れないじゃないスか、今日はシフト終わったら二人で過ごそうってなってるのに!」

「ば、デカい声で言うなっ……!」

「ほらほら、人通ってますよ」

「……ケーキ、いかがっすかー……」



クリスマスイブ。サンタの格好をしたカイジと佐原は、コンビニでケーキの販促をしていた。
消費期限の迫ったケーキを売り切るべく寒い中奮闘したものの、購入者はほんの僅か。結局、一人二ホールずつ買わされてしまった。



「こんなの可笑しいだろっ……!売れないのは俺らのせいじゃないのに買い取り……金稼ぎに来てるのに、気付けば搾取っ……!」


涙目でケーキの箱を睨みつけるカイジに、ついつい苦笑いする。


「まあまあ……苦しいのは確かですけど、店長の機嫌損ねても面倒っスから!一緒に食べちゃいましょうよ」

「ちっ、買っちまったもんは仕方ねぇしな……」


ブツブツと呟く彼を少しからかいたくなり、佐原は悪戯っ子のような笑みを浮かべ、自分のバッグをぽんと叩く。


「飲み物も買ってきましたから!」

「飲み物?」

「着いてからのお楽しみっスよ」

「ふーん?」


酒か?酒か?という心の声が聞こえてきそうなその様子が面白くてたまらない。「早くカイジさんの家行きましょうよ」と急かす彼は、ニッと笑って歩調を速めた。




「……シャンメリー……」

「へへ、こういうのもいいでしょ」

「俺はてっきり、」

「ビールだと思ったのにー!って?」

「…………」


カイジさん分かりやす過ぎますって〜と、佐原はケラケラ笑った。そしてポン、と軽快な音をさせて開けると、グラスへ注いでカイジへ渡す。


「ささ、一杯どーぞ!」

「……どーも」


半分程飲んだところで、カイジは買ってきたケーキを四箱全て開けてしまった。小さなホールのショートケーキ。それをフォークでそのまま崩していき、口に放り込む。佐原もそれに倣い、同じくそのままフォークを入れて食べ始めていく。


「美味いな」

「美味いっスねえ」


なんとなく顔を見合わせて笑い合い、二人はガツガツと食べ進める。談笑し、バイト先の愚痴をこぼしているうちに、数十分程で二つのケーキが殆ど姿を消していた。

濃厚で甘い生クリームに流石に胸焼けし、佐原はフォークを置いていたが、カイジはまだ食べ続けている。ペースこそ落ちているものの三つ目のホールケーキにも手を伸ばしているあたり、止める気はないらしい。


『腹減ってんのか?必死な顔して食ってんなー……』


水取ってきますね、と言われ、コクコクと頷くカイジが子供のように見えて、思わず笑った。






「顔あげて下さいよカイジさぁん」


三ホール目がカイジの胃袋に収まった頃。明らかに口数の減ってきた彼は机に突っ伏したまま、チラリと目線を寄越す。くぐもった声で「なんだよ、」とだけ返すその顔は青白いが、影になっていて佐原は気付かない。


「や、なんか……せっかくだしチューの一つでもしとくべきかなって思いまして」


カイジの肩を掴んでグイッと引き起こす。ぐらりと揺れた頭を乱暴に引き寄せ、引き攣ったような声が上がるのを尻目に佐原がそのまま口付けようとすると、唇に手のひらを当てられた。


「ぐっ……も、むり、」

「はあ……?無理ってまだ何も……」

「お前がっ、ゆっ揺ら、吐く、ぅ、えぇぇ……」

「えっ、ちょっとカイジさん!?トイレ行ってトイレ!」




数分後、トイレの個室では蹲るカイジと介抱する佐原が双方ぐったりしていた。


「ああもう……食い過ぎだろとは思ってましたけど、なんでそんなムチャするかなー?勘弁して下さいよ」

「の、残したら勿体ねぇだろ……う、ぇ、」

「ケーキなんか冷蔵庫入れときゃいいんスよ!」

「……今日中って……書いてあった……」

「大丈夫ですって」

「普段ケーキとか食わないから知らねぇんだよっ……!」

「逆ギレやめて下さいよ!それにあんたの腹はそんなにデリケートじゃないでしょ。ほら、落ち着きました?」

「わ、悪い……ていうか佐原、今の失れ」

「口ゆすいでから戻って来て下さいねー」


佐原は最後まで言わせずに、手をひらひらと振って個室から出て行ってしまう。

そういえば、せっかくムード作ろうとしてたのに台無しにしたな、とぼんやりした頭で考える。落ち着いたカイジは改めて、佐原に悪いことをしたと感じた。





「あ。メリークリスマス!」

「え?あぁ、日付変わってたのか」


小さな冷蔵庫にケーキを入れて戻って来たカイジを、佐原はそう言って満面の笑みで迎えた。その横にストンと腰を下ろしてカイジは暫くきまりが悪そうにしていたが、やがてポツリと話し出した。



「なんかさ、こんなグダグダになっちまったけど……俺はこれでも結構楽しかったっていうか……お前と過ごせて、良かったって思ってる……」


突然のことに佐原はキョトンとする。その反応に更に羞恥心を煽られ、目を逸らしながら小さな声で呟いた。


「……メリー……クリスマス」



「え、えぇ〜?何スかカイジさん、いつになく素直ですね?」

「うるせぇなっ!いいだろ別に!」


照れ隠しでからかう佐原と、照れ隠しで怒り出すカイジ。お互いに余裕がなくぎゃあぎゃあと騒いでいたのも束の間、どちらともなく隣に置かれた手を握り合った。


「俺もカイジさんと過ごせて良かったっスよ」


唇が触れ、舌を軽く絡め合い、それは段々と深い口付けへと変わっていく。


「……カイジさん、口ん中ちょっと苦いんスけど……」

「ぐっ……!」


日付が変わって20分。恋人達のクリスマスは、まだまだ始まったばかりだ。



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