「凡夫、お茶」

「………」

「お茶」




常々思う。
こいつは恋人をなんだと思っているのか。召使か何かと勘違いしているんじゃないのか、と。




「凡夫」




しかも名前さえ呼ばないというこの状況。どう考えたっておかしい!
普段なら怖くて言えないところだが、今日こそは言う!名前くらいはまともに呼ばせる…!




「…いい加減怒るけど」

「怒るのはこっちだ!凡夫凡夫って…たまには名前で呼べよ!」




漸く言えた、と達成感に浸るのも束の間。
アカギは予想外の…本当に予想外の返答をした。





「凡夫の名前?


…名前なんて、知らないけど」




思わずポカンとしてしまう。


名前を、知らない。
仮にも恋人の名前を、知らない。
…こんなことがあり得るだろうか。




「…嘘だよな」

「知らないものは知らない」



もういいよ自分でお茶淹れる…と立ち上がりかけたアカギを必死で制止する。



「いやそこは名前聞けよ!」

「呼んで欲しいなら自分から名乗ればいいだろ」



いちいち腹の立つ奴だが、先程の発言で勇気を使い果たした俺にそれを言う気力は残っていない。




「…平山幸雄だ」

「なんか普通」

「赤木しげるも普通だろ!」



そう突っ込めば、まぁそうだな…なんて適当な言葉が返ってくる。
なんなんだよこいつは…!


そう思うが、そんな訳の分からないところもなんだかんだで好きだ。
本当に救えない。

どこで間違ったかな…と少し切ない気持ちになる。


そんな中、俺に突如飛び込んできたアカギの声。






「ゆきお、好きだよ」





……え?



「…え、え、なに、」

「あんたが名前呼べって言ったんだろ」

「いやそうだけど、なんか名前以外にも聞こえたような…」

「………」

「も、もう一回お願いします…!」

「なんで」

「よく聞こえなかったから!な!」

「ちゃんと聞いてないあんたが悪い」




諦めきれるか!
滅多に言葉に出さないアカギの貴重な言葉だ。そりゃあもう、耳にも心にもバッチリ焼き付けておきたい。
…まぁ悲しい奴だという自覚は、あるけど。




「馬鹿じゃないの。
…この先いくらでも言うことになるのに」

「だからもういっか……は?」

「あんた本当に人の話聞かねぇな」




顔に熱が集まるのを感じる。なんでいつも不意討ちで恥ずかしいこと言ってくるんだ!


…でも溜め息をついたアカギの顔も少し赤いような気がしたから、何も言わずに抱き付いてやることにした。



きっとこれは、

こいつなりの精一杯だから。


愛情不可視


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照れ臭くて真正面からは言えないアカギも良い。
幸雄がアカギに振り回されてるのはすごく可愛い!不憫でこそ幸雄は輝くのです←


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