「…なんだこの高そうなチョコレートは…」
「高そう、じゃなくて高いんだって」
2月14日。
そう、バレンタインデー。
この日の為にわざわざ作らせた非常に高価なチョコレートを、和也はカイジの家まで届けに来たのだった。
「ほら、遠慮すんなよ」
「あ、あぁ…。ありがとう…」
どうせ用意してないんだろうと和也はチョコレートを要求しなかった。
しかしカイジは用意していたのだ。
300円の、チョコレートを。
(渡せねぇだろこんなの貰ったら…っ!)
カイジにしては奮発してしっかりとした箱に入った物を選んだが、300円は300円。
机の上に雑誌やビール缶と一緒に置いてあるのがまた安っぽさを演出していて、なんだか悲しい。
(くそ、でも貰ったからには返すべき…いやでもこんな…)
「カイジ、これ何?」
渡すか渡さないかを悩んでいる間に、和也がチョコレートの箱を見付けてしまった。
カイジは慌てて体の後ろに隠す。
「べ、別になんでもねぇよ」
「俺に隠し事かよ、いい度胸してんな?
いいから貸せって」
渡してしまえばいいのだが、急に照れ臭くなり必死に隠そうとする。
しかし和也は強引にカイジから奪おうと身を乗り出した。
「何?後ろめたい物?」
「うるせぇなっ触んなよ!」
「…触んなとか酷くね?」
「え、いや、悪い…」
傷付けてしまったかと思い焦って謝ろうとすると、さっと手がのばされる。
マズい、そう感じた次の瞬間には既に、薄い箱が相手の右手にしっかりと収められていた。
「あ!」
「キキッ甘いな、カイジ」
笑いながら箱をあけ、中身を見る。
「チョコ?」
「…食えよ、お前のだし」
「マジで!?うわー貰えねぇと思ってた!」
そして1つ口に運ぶ。
「味、どうなんだよ…?」
「…なんか安っぽい…」
「悪かったな!いらねぇんなら返せよ、俺が食うから…!」
「いやその味がカイジっぽくていいんだって。
…なぁ、これ俺のこと考えて買ってくれたんだろ?
ありがとな」
少し照れたように笑う和也は、そう言ってカイジを抱き締める。
普段なら「俺っぽいってどういう意味だ!」と突っ掛かるところ。
しかし安物でも喜んでもらえたことにちょっとした幸せを感じている今、彼は全く気にせずにされるがままになるのだった。
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カイジは変な意地張りそう。