── あぁ、憂鬱だ。
バイト先ではいつもそう思う。
店長は何かと俺のせいにするし、笑顔だって苦手。人付き合いが出来ないタイプだから他のバイトの奴らと会うのも嫌だ。
…特にこの、佐原って奴。
「カイジさん、一緒に帰りません?」
「う……」
こんな風に佐原はたまに誘ってくるのだが、正直なところ気が進まなかった。
人とそういう風に関わるというのがとにかく苦手だ。会話だって続かないだろう。
そう思っていつも断る。
「あー、悪いけど今日は…」
「うーん、いつも断りますよねー。
何か用事でもあるんスか?」
「…用事というか…まぁ、色々あるしよ…」
今日は珍しく食い下がってくるな…。
嘘は苦手だから困る、いいから早く帰れよ!
「ね、一回くらい帰りましょうよ〜」
案の定あっさり嘘だと見破られ、腕を引っ張られた。
振りほどくのもなんだか悪いし、どうせ会話が続かなくてつまらないということにこいつも気付くだろう。
次から断る手間も省けるし、一度くらいは帰るか。
…そんな気持ちだったはずなんだが。
「あの馬鹿店長ホントあり得ないッスよね!カイジさんもそう思うでしょ?」
「あ、あぁ…」
「そんで昨日もまた面倒な仕事押し付けてきて…」
予想外に話が続く。
続くというか、佐原がべらべら喋って俺が相打ちをうつ、という形。
しかし、バイトの愚痴だというのに佐原の話術のせいか面白いとまで思うから不思議だ。
「やー、その時は笑いましたね!ざまあみろって!
…あ、俺ここ住んでるんで。カイジさんの家まだ先ですよね?」
「あぁ。じゃあな」
「さよならー!」
挨拶したにも関わらず何故かこのまま別れるのが惜しくなり、ふと思い付いたことを言ってみた。
「次またシフト被ったら、一緒に帰らねぇか…?」
「え」
柄にもないことを言ってしまった、と後悔。普段の俺ならあり得ねぇ!
…くそ、佐原もキョトンとしてんじゃねぇよ…っ!
「う、嬉しいです!
カイジさんから誘ってくれるなんて…!」
「な、おま、」
心の中で悪態をついた途端、ガシリと肩を掴まれた。
な、なんでこんなに喜んでんだよこいつは!
「楽しみにしてますね!」
「おぅ…」
なんだか気まずくて早足で帰ろうとしたら、約束ッスよー!なんて佐原が叫ぶ。
馬鹿みたいに喜んで恥ずかしくねぇのかよあいつ!
…でも、喜んでいるのを見て嬉しかったのも事実、だったり。
── あぁ、憂鬱だ。
バイト先ではいつもそう思ってた。
店長は何かと俺のせいにするし、笑顔だって苦手。人付き合いが出来ないタイプだから他のバイトの奴らと会うのも嫌だ。
それは今まで通りで変わってないが、1つ変わったことがある。
…あまり認めたくないが、佐原と会うのが楽しみになったということ。
「あ、カイジさん!こんにちは!」
…あいつの笑顔が、眩しかった。
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佐原は良い子。