「お前さー……タエチャンとかいう女、どうなッてんの?」
「どうって、別にどうもなッてねえけど」
「はあ!?ンだよそれ。俺のこと好きーとかどの口が言ッてンの?なあ?」
「えー?この口ー」
「うぜぇ!死ね!」
なんだよごめんッて!と、上辺だけ謝る玄野。いつも通りだ。嫌になる。俺には玄野たった一人しかいないのに、玄野にはたくさんの愚民がまとわりついている。友達も、恋人も。
俺一人だけを愛さない玄野は最低だ。でも嫌われたくないから本気で拒むことなンて出来なくて、所謂『二股』状態を許してしまッているのが現状、どッちが馬鹿だかわからない。
「西、こっち来いよ」
それでも、ふわりと笑って腕を広げる玄野に逆らう術はなく。そのまま大人しく抱き締められる俺はどうかしている。
なんか良い匂いするーとかなんとか言いながら頭を撫でている玄野の顔は緩んでいて、正直馬鹿ッぽい。
でもそんな顔も嫌いじゃないッてことには、もうとっくに気付いていた。
「いつも以上にアホ面してンじゃねーよばぁか」
「ひっでー!可愛い恋人とイチャイチャしてたらニヤニヤしちまうだろッて」
恋人。そっか、俺と玄野は恋人なのか。今更ながら再確認した事実。あの女と別れない玄野はムカつくけど、俺だって恋人だ。こいつの裏も表も、全部まとめて愛してるのは、愛されてるのは、俺だけ。
今の俺は玄野に負けず劣らずアホ面をしているような気がして、たまらず目の前の身体に強く顔を押し付けた。