陰陽傍観(1/4)

「半兵衛様」
「…」
「半兵衛様!」
「………」
「……母上」
「何だい三成君」
いやいや、違うですよね…。
柔らかく微笑まれた半兵衛様の姿にこっそりと頭痛がした。
最近半兵衛様は<母>と呼びかけないと返事をしてくださらない。
あの時私が呼び間違えなかったら…!
っとそうじゃない、緊急の用件だったんだ。
「侵入者です」
「へえ…ここに忍び込むなんて命知らずだね」
「あ、の…忍び込むというか……正面から乗り込んできました、前田慶次が。いかがいたしましょう」
「駆除していいよ」
ははは、半兵衛様は今日も素敵な笑顔だね。
…はぁ。

半兵衛様にとっては知人でも秀吉様にとっては一応友人のはず、さすがに斬滅するワケにも行かなかったので刑部に捕獲してもらった。
容赦はなかったが…まあ死ぬよりはマシだろ、うん。
で、私が今何をやっているのかと言えば前田慶次を謁見の間に放り込…ごほん、案内してその後は隣の間に控えている。何かあった時にすぐに出れるようにで覗き見とかそういうアレの為じゃないから。
「慶次君…僕も秀吉も忙しいんだよ。なのに門を突き破って来るなんて……君には常識はないのかい?君のせいで余計な仕事が増えたよっ」
「半兵衛…その辺で…」
相当イライラを含んだ半兵衛様のお言葉に秀吉様もたじたじだ。
「秀吉!君が甘やかすから彼が…!」
そうっと襖を開けて様子を窺う。
じろりと半兵衛様に睨まれて秀吉様が肩を落としておられた。
…後でお茶と可愛くペンギンの形に折ったお絞りをお出しして元気を出していただこう。
「いや、ほんっとワリィワリィ!」
能天気な前田の声が耳に障る。
貴様はもっと誠心誠意を込めて謝罪をしないかッ!
「それで何の用だい?今日は<お客さん>まで引き連れて…」
深く溜め息を吐かれた半兵衛様は、感情を放棄して義務的に前田へと問い質した。
そう実は半兵衛様のお言葉の通りに前田以外の者もこの場に居るのだが長曾我部と見知らぬ女というよく分からない取り合わせだ。
「そう実は、」
「半兵衛さん!私が慶次にお願いしたんですっ」
前田の台詞に被せる形で見知らぬ女が半兵衛様へ語りかける。
貴様ッ!余所余所しく竹中様とお呼びしないかッ!!
「…君は?見ない顔だね」
「はうっ!申しおくれましたっ私如月真姫です!天女やってます!!」

「おい、今のはウケ狙いのギャグか…?」
同じ様に襖の隙間から様子を窺う家康へと声を掛ける。
典型的平たい顔族の十人並みの容姿で天女?ツッコミ待ちか…?
それにしては寒いギャグだ。
「ワシにも分からない」
そわそわとする家康はツッコミたくて仕方ないのだろう。
しかしさすがにそれをしないだけの分別はあるらしい。
襖バリーンで「何でやねんっ」とかコイツやりかねんからなぁ…。小さい頃に魔王の元に居たせいかなぁ…ほら、あの…浪速必携。

「お願いがあってきたんです!どうか武器を捨てて降伏してくださいっ!」
よし、あのメス今すぐ殺してやろう。

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