青天と月

※コラボ作品です
※小梅様宅『青竜、蒼天の下にて』伊達武将主が登場します


うろうろうろうろ…。三成は『とある』一室の前を行ったり来たり。
さっきから何を躊躇っておるのやら。
「早に行け」
「まままま、待て刑部ッまだ心の準備が…!」
「うぜえ」
ぬしの準備とやらが整うのを待っておったら日が暮れるどころか夜が更けるワ。
全くどうしてくれようかと思案しておると、
「三成…僕に何か用事?」
騒ぎにさざめく気配に気付いたか中から声を掛けられる。
すっかり正体まで言い当てられて…ヤァレヤレ。
これならマァ腹を括るかと思った、
「あわわわ…私はいないって言って!」
「とっとと行け」
が。
マ、情けなくとも良い。情けが無いよりずっと良……これは我の台詞ではなかったワ。


「邪魔をするぞ、蒼天の」
「待て刑部!ストーーップ!私はッ「やあ、いらっしゃい…吉継君、三成」…………」
何時までも部屋の前にぼうっと突っ立っておかせるのも難があろう。
仕方無しに襟首引っ掴んで強制入場。ぬしの制止は聞かぬ。
ぎゃあぎゃあ騒ぎおったが中に居た人物と顔を合わせた途端にミュート状態な三成。
何とも気不味げな顔でにこやかに挨拶してきた人物から顔を逸らしておる。
さて、小田原の折に三成が拉致ってきたこれの名は篠崎蒼希。
『蒼天の竜』などその他いくつもの通り名を持つ伊達の武将で、そして賢人殿のように儚く強い娘よ。
空を溶かし込んだに似た艶髪に黄昏の青を映した双眸。見目の良さばかりではなく生来人を魅了する質なのか、特に賢人殿と…そして三成が非常に気に掛けておる。
我?我は苦……マァ憎からず思っているとだけ。
座り込んだ三成はだんまり石地蔵。時折ちらちらと我に視線を送るのは助けろという事か。ヒッヒッ、世話の焼ける。
「ホレ三成…蒼希に何ぞ言う事があるのではなかったのか?」
促して、暫くして、ようやく観念したか、
「蒼希ッ!」
「うん?」
「っ…………その、悪かった……無理やり攫ったりして……」
彼奴は絞り出すよう言った。未だ項垂れたままで目を合わせることはせなんだ。
これが戦場で凶王と恐れられている男か、ウウムそうは思えぬ。
「君は僕を連れて来たことを後悔しているのかな?」
「言い訳はない…そして後悔はしていない!反省もしていないッ!」
「『ない』尽くしか…ヤレ呆れた」
カッ!と顔を上げての力強い言葉。が、すぐにまた萎れた花のように男は背を丸めた。
佳人は、と言えば…三成の馬鹿正直な返答に少しだけ目を丸くして、
「それでこそ君らしい」
それからくすりと笑いを零した。
「本当に嫌だったら僕はあの時君の手を振り払ったよ」
「し、しかし…」
三成の手を取り、娘は幼子に言い聞かせるよう優しげに言を紡ぐ。
それでもまだ悄気返った三成に少し肩を竦ませ我を見てきた。どうにかしろってか。
「三成よ茶でも淹れてこい」
「刑部ゥッ私は今取り込み中、」
「三成、君の淹れたお茶が飲みたい。…ダメかな?」
「分かった!すぐに淹れてくるッ!!」
言うが三成は矢の様に駆けて行きやる。
尻尾でもあればはち切れんばかりに振ってそうな具合よナ。
ヤレ、ころころころころ手の平の上。あんまり容易く転がされおって……溜め息の一つや二つ出よう。
「ふう……蒼天のよ、あまり三成を弄んでくれるナ」
「嫉妬かな?」
くいと口端を上げて笑う娘は、何とも愉快げな顔である。
「…、ヒヒッそうよソウ。ぬしが三成ばかりに構いおって悋気に狂いそうなのよ」
「っく、くくっ……心にもないことばっかり」
堪え切れずといった風に佳人は肩を震わす。
マッタク…だから苦手なのだ。
三成が戻る前に笑いを止めなければ。どうしたものか。

(9/9)
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