女中さん罷り通る!

※コラボ作品です
※木更津様宅女中主が登場します

「一さんって…」
そんな言葉が聞こえてきた。
この先は確か井戸で、今の時間なら女中さんが洗い物をしてたか…。
これぞまさに井戸端会議ってやつだな。
ところで一とは誰かと言えば、女中なのだが…豊臣の一員としての自覚を持った立派な女なのだ。
その昔、刑部が遊郭で下働きさせられていた一を拾ってきたらしい。どのくらい昔の事かは二人とも言わない…年がバレるからだそうだ。私が豊臣軍に来た時には一はすでにいたからイイ年のはず……とか考えてたら寒気がした。何故だ。
豊臣の為に尽くし、秀吉様が斃れられた時も離反する者が多く出る中コイツは真っ先にここに豊臣に残ると言ってくれた。こんなに立派な志を持った女を私は他に知らない。…刑部同様年齢の事を言うとキレるのが玉に瑕だが。閑話休題。
しかし、これは…まさか女中内イジメ?
…アレは大人しく苛められるタマではないだろう。だがッしかしッ豊臣の者がこそこそ陰口だとか姑息な真似だとォ!?許さん!
私は注意してやろうと女中らの前へ出ようとした。
「…とても素敵な方ですよね」
が、その言葉に足を止めた。
危ねっ私勘違いで怒鳴り散らすところだった。セーフ。
ただでさえ目付き悪くて怖がられてるのにこれ以上印象悪くして堪るかッ。
「この間、曲者騒ぎがありましたよね。あの時私一さんに庇ってもらっちゃって!」
「えー!いいなあ!」
「あぁっ格好良かったです一さんっ」
アイツは一体何をやってるんだ何をッ!
もしかしたらそこらの足軽よりは強いかも知れんが…それにしても無茶が過ぎるッ!
あとでみっちりねっちょり叱ってや……
「一さんが男の方だったらなぁ…お嫁さんにしてもらうのに…」
「あっ私も私も!」
「いいよねぇ…一さん…」
…。
次々と上がる女中さんたちの黄色い声。
私はとてつもない敗北感を抱えてその場をそっと立ち去った。
べ、別に悔しくなんてないんだからね!

「と、このような事があった」
「それを私に聞かせてどうしようと仰るのですか三成様?」
はいどうぞ、と差し出された茶を受け取り啜る。一の茶はそこそこ美味い。
だが私だって茶は負けんぞ?
「いやあ…ただモテ期だねって。羨まー」
「それは未だ独り身の私に対する皮肉でございますか?」
「貴様はすぐキレる!」
手の中の急須がみしっていったよ。怖っ。
貴様はもっと年とか結婚の事とか言われても余裕を持たないとだな………あ、睨んでる怖っ。
ご機嫌取りにとある部屋の茶箪笥から盗…頂戴してきた菓子を出したら空気が和らいだ。
ふふん、やっぱり女には甘い物だな。
「美味しゅうございますね」
「…ああ」
こうしてると日頃のストレス(家康とか家康とか)が解消される…。
また誘ったら一は一緒にお茶をしてくれるだろうか。
そう思いながら私は一の懐紙に菓子のお代わりを乗せてやった。


「三成、一。我の秘蔵の菓子を知らぬか?」
「「いいえ、知りません」」
「…然様か」
刑部はにっこり笑って数珠に婆娑羅の力を込めた。
まったく!私の周りにいるヤツらはキレやすくて困る!

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