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こねた・ぎゃくはーモノガタリ設定
誰も得をしない自分の発言に何の疑問もないおっさんの話

「邪魔するぞ」
「……、夜更けに我を訪ねる者があろうとは。如何したか」
「何も」
「よもや一人寝が寂しいという幼子でもあるまい、如何した」
「何でもねえ」
「巷に聞く『千人斬り』の下手人でも捕らえに参ったか」
「ッチ、そんな訳あるか。全く戯けた妄言だ……俺がんなモン信じていると思っておるのか」
「ソウは言うておらぬ、唯……その妄言に激昂して町奉行相手に殴り掛からんばかりに怒鳴り散らしたのはぬしと聞いておるが。成る程、なれば気が立って眠れぬか」
「っ、何故お前がそれを!ああ、もう!糞っ!そうだよお前の言う通りだよ!」
「ぬしはそのナリに似合わず繊細よナ」
「煩い。何とでも言え。笑いたければ笑えばよい」
「笑わぬワラワヌ」
「そう言いつつニヤついてんじゃねえよ、ったく……」
「イヤ、ナニ……我はナ嬉しいのよ」
「嬉しい?」
「ぬしが我の為に怒りを露わにしやるのが好い」
「……お前は俺の友だ。心配もするし、理不尽を言われれば怒りもする」
「斯様な病身を友と呼ぶとはぬしはなんと懐の深き男か、ヤレ我は感心するぞ」
「その自虐は聞き飽いたぞ。それよりもだ、吉継よ、お前怨みを買った覚えはないか」
「サテ、ひのふの…数え切れぬ程度ならばあるが」
「……だよなあ。知っているか、『千人斬り』と時を置かずして界隈で『人の血を舐れば病が癒える』と聞くようになった」
「ユエに我が兇徒ではないかと囁かれておるのよ。フム……我を邪魔に思う者か……」
「真実人の血を舐って吉継の病が癒えるのならば疾うに俺が千人斬っておるのだがな」
「ぬしの冗談事は笑えぬ」
「俺もそう思う」
「真マコト笑えぬワ、ヒッヒヒヒヒ…」
「ふ、ふふ、そう言いながら笑っているじゃないか」
「ヒヒヒ、ぬしこそナ」
「ふふ、はは、っはあー……お前と話していたら馬鹿馬鹿しくなってきた。よし!お前を怨む輩を探すのは朝にするぞ。こんな気の滅入る話は今したくない」
「そうやナ。サ、もう夜も更けた。早に屋敷に戻り体を休めるが良かろ」
「ここで寝る。お前の寝床借りるぞ」
「な…!では我は硬い床の上で寝よ、と?ヤレ、病人に無体を強いるぬしは鬼よ」
「何を言っておるか、共寝すればよいだろうが」
「は、な、正気、カ……?」
「何だ、俺は何か可笑しな事を言ったか…?まあ温石代わりと思って我慢してくれや」
「我はもう……ぬしには呆れ果てて物も言えぬ」

(無頓着と云う名の親愛)

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