「壱矢よ、みつに無体は働いておるまいな」

座敷に通すや否や、この男はそう宣った。
「吉継、お前ね。友に会った一言目がソレというのはどうだろうか」
俺がジト目で見れば、何が可笑しいのかヒィヒィと笑い転げる。
「ハァ…全く…」
「ナァニ、ぬしが頬を腫らしておるのが可笑しいだけよ」
しまった、俺は頬を押さえて一つ呻く。
それがまた可笑しかったらしく、吉継は咽るほどに笑う。
「して、ナニユエにそうなった」
ニタニタと笑いながら聞いてくる吉継。
ああ畜生、殴ってやりたい!
「…おみつが血の匂いをさせておったから怪我でもしたのか、と聞いた。そしたら殴られた」
「ヒヒッ、ぬしは真にユカイな男よの。気付かなんだか?」
「…何も殴ることはないだろうが」
俺だって月の障りだと気付いたわ!…言ってからだがな。
「アレは気性が激しいからナァ」
吉継がそうしみじみと言ったところで、丁度よく、みつが茶を持って来た。
「貴様、刑部におかしなことを吹き込んではいないだろうな」
「おみつが可愛いと言っておったが、それはおかしなことではないなあ!」
そう言ってやればみつは仏頂面を見せる、その耳は赤くなっていたが。
「だっはっは!おみつは素直だのう!」
「っ!貴様っ黙れっ!!刑部!この男をどうにかしろっ!!」
「ヤレ、それは我にも難問よ」

この時までは、戦ばかりの世ながらこうした平穏な時間が続くものだと、俺はそう思っていた。

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