現実で

「ドッピオ!私の可愛いドッピオー!」
「ボス!ボスー!!会いたかったですボスーー!!!」
何ぞこれ。
この場に私いらないよね帰っていい?…あ、ここが家だったわ逃げ場ない。
石田家の居間から臨む中庭でひしりと抱き合うソバカス青年とガタイのいい中年。感動の再会と言えど関係のない私からしたら非っ常に暑苦しい絵ヅラだ。見ているだけで体力ゲージが削られていく気がする。
目下、ご近所さんにこれを目撃されて可笑しな噂が流れないかが心配だ。
…って、おいちょっと待てよく考えてみよう。
貴様ら同一人物だろうがッ!なんだよ『私の可愛い』って!自『我』自賛かッ!
なんだか納得の行かない私の気持ちを余所に盛り上がる二人、エンダアアアイヤァア。いやはや素晴らしい光景だね(棒)。
「ぬしらのせいでアルコバレーノにいらぬ借りを作ってしもうたワ。全く以て腹立たしい…!」
そして横には荒ぶっている我が弟が苦虫をこれでもかと言うほど噛み締め吐き捨てる。
うう……ぴりぴりと肌を刺す殺気が痛い。
はたしてあの赤ん坊と一体どんな取り引きをしてきたのだろうか。
知りたくないけど。むしろ全力で目を逸らすし。
ディアボロよ、ここは空気を読んで慶松にいっぺん殺されてくれ。
どうせすぐにキリストも驚きの復活劇を果たすんだから大した害はない、はず。
「おいヨシマツ」
「あ゛?」
「…は恐いから…ミツナリ!」
さすがディアボロ、へらへらと話しかけては睨まれて首を竦めている。
そこに痺れないし憧れない。
「なんだナルシスト野郎」
「誰がナルシストだッ」
「鏡見ろ、そこに映っている」
「お前はなぜッオレに対してそう棘のある言い方ばっかりなのだッ」
人徳じゃないかなあ。
そもそも自分が丁寧な対応をされるような振る舞いをしてこれたと思っているのか。
「フ、そんなことどうでもよかろうなのだ。用件は何だ、疾く言え」
「誰のせいで……まったく……ふう。あの、だな…ドッピオもここに置いてくれ、と……あのおっさんに頼んでくれないか」
プッッツーーーン☆だ。
「ディアボロ貴ィ様ァアッ斬滅してやろうかァーーッ」
「な、ななな、な……!?」
「私より年上の娘がいるくせに父上をおっさん扱いすんなよおっさんターコハーゲカビ頭。しかも貴様なんてただのコミュニケーション障害の引き篭もり中年だろ。あーあートリッシュも父親がこんなダメ親父で可哀想になあ!!」
「え、ちょ、なんでオレに娘がいるって…しかも名前まで…」
ただいま言葉の棘増量中で心なしか涙目。だからって私は許さないぞッ!絶対にだ!
我知ーらね、とは慶松の言。さっきまでぷりぷり怒っていたくせにすっかり傍観者スタイルになっている。
フン、どうせ端から止める気なんかないくせにね。
「君!ボスを…ボスを虐めるのはやめてくださいッッ!」
「ドッピオ…!オレのために……!」
私のちょっとした一喝にマナーモードなディアボロ。それを背にし、ドッピオが両手を広げて勇ましく立ち塞がる。
これ以上ボスを虐めるな!という黄金の意志をヒシヒシと感じるぞ。
ううん、それにしても自分で自分を庇うとは……なんッて(頭の)可哀想な奴なんだろう。
仕方ないな、少しだけなら優しくしてやろうかな。小さじ一杯程度。

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