ジャンク | ナノ
 墓参りの話




「ねぇねぇ、聞いたことある? ここらへんにさ、知る人ぞ知るパワースポットみたいな場所があるらしいよ。駅前の大通りからちょっと裏に入ったとこの住宅地の中に小さい墓地があってね、そこに、ギャンブルがすっごく強かった人のお墓があるんだって。それで、そこをお参りすると、その人の運をわけてもらえるらしいよ。あ、あと、そのお墓のかけらを持ってると、勝負事に強くなるとか。いやいや、別にそーいうの信じてるわけじゃないけどさ、ちょっと面白いよねー」





「あ、たぶんあれだ。うわ…、すごいなぁ…。赤木…しげる…さん?のお墓なのかな?」
『そうだぜ』
「きゃっ!」
『おっと、驚かしちまったか? 悪い悪い、嬢ちゃんみたいなのが来るのが珍しくてな』
「あ、いえ、こちらこそすみません、大きな声を出してしまって。まさか人がいるとは思わなくて…」
『しかし、ここに来るのはたいてい、辛気臭い顔したギャンブル中毒野郎ばっかりなんだが……。嬢ちゃんも麻雀をするのかい?』
「えっとその、麻雀はやったことないです」
『そんなら馬か。船かチャリンコってのもあるが……、見たとこ若いし、パチンコか?』
「あの、すみません、私はそういう賭け事はやりません、です」
『ふーん? ますます珍しいな。じゃあ、なんで来たんだい』
「その、友だちに聞いて来たんです。ギャンブルがすごく強かった人のお墓があって、パワースポットみたいになってるって。私、今度ある資格試験を受けるので、それでちょっとお参りしてみようかな…、と」
『ほぉ…、パワースポットねぇ。ずいぶんと有名になったもんだな、この墓も』
「でも、こんなにすごい感じの場所だとは思いませんでした。これ、元は普通の四角いお墓だったんですよね? 今は石碑みたいになってますけど…」
『ああ、どこのどいつがやり出したんだが知らねぇが、お守りとか言って墓を削っていきやがるんだ。おかげでこんなにボロボロになっちまってよ。なんだかよくわかんねぇもんも色々置いてあるし、まったく墓をなんだと思ってんだか』
「ほんとすごいですねぇ。このへんの飲み物とかタバコとかはいいとしても、馬券にコインって…お供えっていうよりは願掛け?ですよね」
『勘弁してくれって感じだな』
「あ、ここのチップの山が崩れそう……よいしょっと……ん…? 1999年9月26日…? うそ!?」
『あ? どうかしたか?』
「だ、だって、たった4年前じゃないですか!」
『ああ、そうだぜ。それがなんだ?』
「あ…すみません……ずぅっと昔の人なんだと勝手に思い込んでて…」
『ははははは、まあ、墓がこんなにボロっちけりゃそうも思うわな』
「それに今日って9月26日……。つまり私、命日に来ちゃったってことですよね」
『ああ…、そうか、今日が命日なのか。どうりで見知った顔がぞろぞろ墓参りに来てたわけだぜ。しかし、知らねぇで来たってんなら相当引きが強いんだな、お嬢ちゃん』
「うぅ…なんだか申し訳ないです…」
『ところで、そこのカバンに突き刺さってる花は俺へのプレゼントかい?』
「あ、これ! 忘れるところでした。パワースポットとはいえお墓なんだし、せめて何か持ってかないとと思って買ってきたんです」
『へぇ、そりゃキクかい?』
「はい。お花屋さんで仏花として売ってたのをそのまま買ってきただけですけど」
『いいんじゃねぇの。キクは好きだぜ』
「じゃあ、ちょっと失礼して…。このへんに活けておけばいいかな…?」
『お、なかなかいいじゃねぇか』
「お賽銭とかも置いたほうがいいでしょうか…?」
『賽銭なんざいらねぇよ、神社や寺じゃねぇんだから。死人は金なんか使わねぇしよ』
「それもそうですね。……あの、あなたもお墓参りにいらしたんですか?」
『うん? あー、んん……、まぁ、そんな感じだな。そういうことにしといてくれや』
「?」
『花も多すぎて溢れそうだなぁ』
「あなたはこの方の…えっと、赤木さんとはお知り合いだったんですか?」
『知り合い…、知り合いね。……そうだな、こいつのことなら知らないことはないぜ』
「あら、ずいぶん仲良くしてらしたんですね」
『まぁな』
「あの、差し支えなければ、赤木さんってどんな方だったんでしょうか。このお墓を見る限り、すごく愛されてた方みたいですけれど」
『うーん、そうだなぁ……。とんでもねぇヤツだったよ。取り柄と言っちゃあ麻雀くらいで、他に褒められるようなところは全然なかったな。家族はいなかったが……、ま、友人は少しだけいたか。とにかくいつ死んでもおかしくないヤツだったけどよ、思ったより長生きしたんじゃねぇのか? うん、そんなとこかね』
「それは…なんというか、破天荒な感じの方だったんですね…。やっぱり、麻雀がものすごく強かったんですか?」
『ものすごく…がどの程度かはわかんねぇが、100年に1度の天才とか言われてたような気はすんな』
「はー、ほんとにすごい方だったんですね」
『そういや、嬢ちゃんは墓、削ってかねぇのか?』
「あ、いえ、私はそんな…。なんだかバチが当たりそうですし…」
『バチなんか当てねぇよ。ほら、そこにちょうどいいサイズの破片が落っこちてるじゃねぇか。せっかく来たんだから、それ持ってけよ』
「えっ……でも、いいんでしょうか……」
『俺がいいってんだからいいに決まってるわな。なんかの試験だとかを受けるんだろ? んな石ころが効くかどうかは知らねぇけどよ』
「じゃあ、失礼して、……いただきます」
『なんで墓に手ぇ合わせてんだい』
「それは、一応、天国の赤木さんに墓石をいただくお伺いをたてておかないとと思いまして…。あとついでにお祈りを。試験受かりますように」
『俺から見るとかなり面白い絵面だぜ、それ』
「まぁ、実際にご友人だった方にしてみればそうですよね。数年前まで普通に生きてらした方が、今は神様みたいな扱いですもの」
『まったくだ。ちょっと意味がわからねぇな』
「でも菅原道真だって、人間だったけど学問の神になっちゃったわけですし。本人は天国で笑ってらっしゃるかもしれませんが、こんなに愛されてる方ですもの、きっともう神様みたいなものですよ」
『そうかな』
「ええ」
『ははは、そんなふうに言われると妙に照れるな』
「?」
『ありがとよ、話せて楽しかったぜ。たぶん受かるんじゃねぇか、その試験』
「えっ…?」
『ま、頑張りな』
「ひゃっ!」
「…………」
「す、すみません、変な声をあげてしまって。さっきの突風で目にゴミが入って……」
「…………」
「…………」
「…あれ…?」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「…いなくなっちゃった……みたい……」
「…………」
「…………」
「帰った…のかな? ずいぶん足が速い人だなぁ…」
「…………」
「…………」
「そういえばあの人、なんでハダシだったんだろう…?」




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