※うっすら自慰描写を含みます。ご注意ください。





今日のリツカさんはミニスカートのスーツを着ていた。上は、胸のところにフリルのついたピンク色のシャツだ。長い髪はそのまま下ろされている。
俺は、彼女が何かの冊子を読みふけっているのをいいことに、ソファーに座っている彼女の全身を無遠慮に観察しながらコーヒーをすすった。
初めて会ったときから思っていたが、綺麗な人だ。ストッキングに包まれた足はすらりとしているし、胸も、けっこう大きいし。

今日の俺の仕事は某有名企業の前で張り込みをすることだった。ターゲットのお偉いさんが会社から出てきたら、行き先を確認して安田さんに連絡するだけという簡単な任務だ。一日仕事になるだろうと思っていたのだが、予想外にターゲットが早く出てきたので、俺は早々にお役御免となった。
それで今は、事務所代りに使っているマンションの一室で、安田さんから電話が来るまで待機している。マンションにいるのは、俺とリツカさんの二人だけだ。

俺は暇だったが、リツカさんは調べもののようなことをしたり、書類を書いたり、写真の束をめくったりと、ずっと働いている。
さっき、手伝いましょうかと声をかけたのだが、笑顔で「大丈夫。ありがとう」と言われてしまった。
彼女が今どんなヤマに関わっているのかもよく知らないし、下っ端で知識もない俺では役に立たないのだろう。俺に出来ることといったらお茶をいれることくらいだ。正直、自分の使えなさがちょっと情けない。

読んでいるふりをしているだけでちっとも理解など出来ていない経済新聞の三面記事から、ほんの少しだけ目線を浮かせて、リツカさんのミニスカートとそこからのぞいている足を見つめる。悲しき男の性と言うべきか、綺麗な女性がいればつい見てしまうのが人情ってものだ。

恋人とかいるのかな。まさか誰かの愛人ってことはないよな、さすがに。実は銀さんとデキてるなんて…、ありそうで怖いけど。でも、見たところそんな感じはなかったと思うし。
暇に飽かせて、とりとめのない連想ゲームが頭の中を駆け巡る。


カツン。
ふいに、リツカさんの手からボールペンが落ちて、床の上に転がった。

「おっと、いけない」

ペンを拾おうと身をかがめた彼女の胸元からその中が一瞬だけ見えて、俺は思わずごくりとつばを飲み込んだ。
見えたのは白色の細かいレースだった。おそらく、ブラジャーのふちの飾りだろう。それから、胸の谷間。

ぐっと急速に体の中心に熱が集まっていくのを感じて、俺は焦った。布の端と肌があれっぽっち見えただけだっていうのに、俺の体は律儀に反応してしまったらしい。リツカさんがペンを拾って頭をあげたので、俺は慌てて新聞を広げて自分の顔を隠した。

おいおい、欲求不満の中学生かよ、俺は。
熱くなる体を必死でなだめながら新聞記事を読むことに集中しようとしたが、ダメだった。印刷された活字の上を目がすべっていくだけで、内容なんて全く頭に入ってこない。
一度意識してしまうと、もうどうにも止まらなかった。もやもやとした下劣な妄想が脳内で勝手に膨らんでいく。

下着の色は白だろうか。胸は何カップあるんだろう。触ったらきっと柔らかいだろうな。腰とか、ふとももとかもイイ感じだし、たまらない。
あのスーツを脱がせてしまって、足を開かせて、それで……、


プルルルルプルルルル

「うわっ!」

テーブルの上に放っておいたままだった携帯電話がいきなり鳴りだしたので、俺は情けない声をあげてしまった。
あたふたと電話を掴んで、ボタンを押す。

「は、はい、森田です」
『俺だ』
「ああ、安田さん」
『例の取締役の件だがな、やっぱり愛人囲ってやがったよ。まさかこんなに上手くいくとは思わなかったぜ』
「それで、俺は何をすればいいですか?」
『あー、そのことなんだがな、とりあえず今日はもうやることがなくなっちまったんだ。長く待たせて悪かったな、あがっていいぞ。そんで、明日また同じ時間に同じ場所に来てくれ』
「はい、わかりました。お疲れ様です」

電話を切って時計を見ると、17時を少し過ぎたところだった。

「森田くん、今日はもうあがり?」

リツカさんがコーヒーを飲みながら俺に声をかけた。安田さんの声がずいぶん大きかったから、会話の内容は丸聞こえだったのだと思う。

「あ、はい、そうみたいです。やることなくなっちまったらしくて」
「じゃあ、ここに泊まってく?」
「え?」
「明日もお仕事なら、帰るの面倒でしょう?部屋はいくつも余ってるし、みんなが適当に置いていくから服もあるはずよ」

リツカさんはにっこりと笑ってコーヒーのカップをテーブルに置いた。

まだ仕事があるみたいだし、たぶんリツカさんも今日はここに泊まるのだろう。俺がここに泊まるってことはつまり、夜中に彼女と二人きりになるってことで……。
先ほど見てしまった胸の谷間を思い出して体の中に変な気分が溢れ出したので、俺は慌てて立ち上がった。

「い、いえ!俺、帰ります!」
「あら、そう?遠慮しなくても…」
「お疲れ様でした!」

悶々とした気持ちを抱えたまま、俺は荷物を引っ掴んでマンションを飛び出した。


俺は健全な若い男なのだ。性欲だってもちろん人並みにあるし、綺麗な女性を見れば下心がうずくのは当然の反応だと思う。別に、おかしくなんかない。
そういえば最近忙しかったから、ここしばらく抜いていない。こんなにムラムラするのはきっとそのせいなのだろう。そうに違いない。

そんなことを考えながら駅前近くの繁華街を歩けば、派手なネオンに飾られた、いかがわしい感じの店の看板がいくつも目に入った。つい歩幅をゆるめて凝視してしまう。
薄給バイトとギャンブルばかりしていた少し前までと違って、アンダーグラウンドに胸のあたりまでどっぷり浸かっている現在、金だけはやたらとある。風俗なんてあのころは夢のまた夢くらいに考えていたが、今は行こうと思えばいくらでも行けるのだ。

ふらっと気持ちがそちらへ揺れる。

いや、ダメだダメだ。明日も仕事があるのに、ああいった場所に行くのはちょっとあれだろう。第一、ああいう店はどうにも俺の苦手な分野に入る。
それにあまり考えたくはないが、緊張して勃たなかったりしたら情けないし、逆に早すぎてもその、やっぱり情けない。

俺は風俗のおねーちゃんに抜いてもらう誘惑を振り切って、駅前にあるレンタルビデオ店に立ち寄ることにした。



***



女子高生、ナース、スチュワーデス、人妻……。
やたらどぎついピンク色に溢れたアダルトビデオの棚をざっと眺めて、気になるタイトルを探す。
俺はこれといって特殊な性癖を持っているわけではないので、こういった類のビデオに求めるのは女優の顔のかわいさだけだった。胸は大きいほうが燃えるが、特に巨乳好きというわけでもないし、とりあえず抜ければなんでもいい。

どれにするかな、と適当にパッケージを引き出しては眺めていたが、ふと、その内の1本の表紙に目が吸い寄せられた。
スーツを着た女優が、黒板を指すときに使う長い棒を手に持ち、足を組んで教卓の上に座っている。女教師もののようだ。『先生がおしおきしてア・ゲ・ル』とかいう煽り文句がついている。
どちらかと言うと女教師より女子高生のほうが好きなので、普段ならば何も考えずに棚に戻すところだが、今日は違った。パッケージをひっくり返して裏面を確認し、また表紙を眺める。

少しだけ、リツカさんに似ていると思ったのだ。
と言っても、似ているのはミニスカートのスーツを着ていることと髪型くらいで、顔はまったくもって似ていない。第一、あの人は教師じゃないし。

これを借りようか。いや、でもこれが目に止まったのは、リツカさんに格好が似てるからという不純な理由だ。そんな風に選んでしまっていいのだろうか。だが興味があるのもまた事実…。
俺は長いこと悩んだすえに結局、その女教師ものと、もう1本適当に選んだ素人ものを持ってカウンターに向かった。



***



この仕事をするようになってかなり時間が経つが、俺はいまだに上京してきたときに借りた風呂なしアパートに住んでいた。
金はあるのだからもっといい場所に住むことは簡単だったが、少々の愛着もあったし、それに新しい部屋を探したり手続きやらなにやらをするのが面倒くさいから、という理由が大きかった。

俺の部屋の真ん中あたりにはテレビとビデオデッキが鎮座している。実は、このビデオデッキは買ったものではない。何年か前の粗大ゴミの日に、近くのゴミ置き場に捨てられていたのを拾ってきたものだ。型は古いが、壊れている箇所も特になく、今のところ十分使えている。
だが、一つだけ問題があった。うちのテレビ(これは買ったものだ)は安物なので少々画質が悪いのだが、ビデオを再生するとなぜかこの元々悪い画質がさらに酷くなってしまうのだ。設定やら配線やらを色々といじってみたのだが、どうしても直らなかった。
まあ、タダなのだし、クリアな画質で見たい映像も特にないので、今まで不満なく使ってきた。

だが、今回に限ってはそれが裏目に出た。


『あらあら、もうこんなになっちゃったのね』
『せ、先生……』
『触ってほしい?』

女教師が男子生徒の股間のふくらみを、ズボンごしに指揮棒でつっつく。なにか悪事を働いたらしい男子生徒に女教師がおしおきと称して性的なことを行うという、ありきたりなシチュエーションだった。それはいい。別になんの文句もない。
今、俺の頭を悩ませているのは、女教師役の女優だった。テレビの画質が最悪のため、アップならまだしも、引きの映像になると女優の顔はかなりぼやけてしまう。

そのせいで、ときどき見えるのだ。
リツカさんに。

『悪い子ね、ダメじゃない』
『うぁ…、やめてください、先生…』

女教師が首をかしげて微笑む。

ヤバい。これはけっこう、クる。
すっかりテントを張ってしまっている自分の下半身に目をやって、俺は唇を噛んだ。シチュエーションや女優の仕草なんかに興奮しているのだと必死で自分に言い聞かせてみたが、無意味だった。今日見たリツカさんの姿がちらちらと頭の中をよぎり、ビデオの映像とかぶる。
リツカさんが、そんないやらしいことを…、ああ……。

俺はもうたまらず、部屋着のズボンをずりおろした。溢れる自分の欲をどうしても抑えることができなかった。
……ちょっとくらいなら、いいだろうか。別に悪いことをするわけじゃない。ほんのちょっと、試してみるだけ。
俺は何度も言い訳を重ねながら、脳内にリツカさんの姿を思い描いた。

テレビの中では、女教師が男子生徒の上に馬乗りになって生徒のシャツのボタンをゆっくりと外している。
あの人ににそんなことされたら、俺は……。

「あぁ……リツカ…さん……」

俺は荒い息を吐きながら手を動かした。



***



車の運転席で缶コーヒーを飲みながら、俺は罪悪感と申し訳なさで死にたい気分だった。
隣の助手席では、珍しくメガネをかけているリツカさんがフロントガラスの向こうを見つめている。

やってしまった、と思う。昨晩、リツカさんで抜いてしまった。それも思いっきり。名前まで呼んで。
まさか、こうして翌日にまた会うことになるなんて思ってもみなかった。いや、少し考えればこうなることくらいわかりそうなもんだが、本当に昨日の俺はどうかしていた。

「ねぇ、森田くん」
「あ!はい!なんでしょう!」
「……何かあったの?なんだか今日、変よ?」
「へ?いや、その…、なんでもない、です」

リツカさんがいぶかしげな表情で俺を見る。
なんとなく後ろめたくて、目を合わせることができない。

「何か隠してる?」
「そ、そんな訳ないじゃないですか!」
「本当に?」
「えーと、あの、リツカさんがメガネかけてるの初めて見たんで、その、珍しいなって、思いまして…」
「え?ああ、これね。普段はコンタクトなんだけど、今日はちょっと気分を変えてみようかなって思って」
「あ、そうなんですか。…いや、なんかリツカさんって学校の先生とか、似合いそうですね」

そう口に出してしまってから、俺の頭は真っ白になった。
最悪、最悪だ。なにを口走ってるんだよ俺は。こんなこと、全く言うつもりなかったのに。

「先生?そんな風に見えるの?あー、でもそうね、学生のころにバイトで塾の講師やってたことあるなぁ」

リツカさんは紅茶の缶を手に取って、プルタブに指をかけた。プシッという小さな音をたてて缶が開く。

「塾、ですか」
「うん。個別指導の塾」

メガネをかけ、教科書を手に微笑むリツカさんの姿が脳内に浮かび上がって、俺は思わず手の中の缶コーヒーを強く握った。
こ、個別指導の塾講師ってそれ、それはちょっとその…。エロすぎやしないか…?

すぐ隣で紅茶を飲んでいるリツカさんは相変わらず綺麗で、横目で見ているだけで心臓が高鳴った。



俺はこの一件以来、リツカさんのことを思いっきり意識するようになってしまった。
ついでに女教師もののエロビにもすっかりハマってしまうこととなるのだが、それはまあ、また別の話だ。



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