ダメ男×真面目


 俺の恋人はダメな男だ。
まず、部屋が汚い。平気でゴミを床に転がすわ、脱いだ物を投げ捨てるわ、食べ残したものを放置するわ、とにかく汚い。そして、酒癖が悪い。いつもは部屋に引きこもっているくせに、時たまふらりと出かけたかと思えば、見ず知らずの人を連れ込んで一つのベッドで仲良く身を寄せ合ってることもある。それは男であったり女であったり、区々だ。そしてそんな日の次の朝には決まって綺麗さっぱり記憶が無くなっている。
何故そんな奴と付き合っているのかとよく聞かれる。

「おい、奈津(ナツ)! 服脱いでから寝ろよ! 皺になるだろ!」
「んー無理ー……」

バイトの帰りに恋人の部屋に顔を出そうと思い、彼のマンションへ向かうと、そいつは部屋の前で倒れ伏していた。その傍らにはジャラジャラとキーホルダーのついた鍵が転がっている。どうやらまた何処かで酒を飲んできて、部屋の鍵を開けている途中に力尽きたらしい。俺は仕方なく奈津を引きずって部屋の中に放り込んだ。ボフンとベッドに沈む奈津はもう半分ほど夢の世界に旅立っているようで、呼びかけても返事は曖昧だ。俺は仕方なく奈津のシャツとズボンを脱がし、パンツ一丁のその身体にタオルケットを被せてやった。すると、奈津は気持ちよさそうに頬を緩める。まったく、手のかかるやつだ。

 俺は服を畳み終わった後、当然のように汚い部屋を見回して一つ溜息をついた。前に掃除したのは二週間ほど前だっただろうか。そろそろ潮時かもしれない。チラリと時計を見ると、日が変わるまであと小一時間程度。俺は奈津を振り返って言った。

「奈津、俺今日泊まるぞ? 明日朝から掃除するからな。おまえも手伝えよ」
「んー……」

聞こえているのだろうか。まあ、たとえ聞こえていたとしてもどうせ奈津のことだ、起きてくるのは昼過ぎだろう。
奈津は少しもベッドを譲ってくれる気はないようだから、俺は部屋の片隅にあるソファに横になった。奈津がなけなしのお金をはたいて買ったものだ。それなりに座り心地はいい。柔らかいクッションに頭を置いてぼうっと天井を見つめる。そして数回ほど瞬きをしてから俺は少しだけ身体を傾けて奈津を視界に入れた。

「なあ……明日掃除が早く終わったら、行きたいところあるんだけど」
「ん……」

奈津の唇から微かな吐息が漏れた。それに俺は苦笑し、ゆっくりと瞳を閉じた。

***

「はよ……」
「あれ、奈津。どうしたんだ?」

日が昇る頃に起きて掃除を始めた。それから一時間も経たないうちにゴミ袋がパンパンに膨れてしまったため、一度外に出して戻ってくると、いつの間にか奈津が起きていた。まだ半開きの目を擦りながらもそもそとベッドの上で着替えている。朝と呼ばれる時間帯に奈津が一人で起き出したことに驚いて、思わず素っ頓狂な声が出た。

「掃除……」
「え、ああ。今やってるけど……」
「手伝ってやる」

そう言って、奈津は覚束無い足取りで立ち上がると徐にベッドのシーツを剥がし始めた。どういうことだ。今日は槍でも降るんじゃないだろうな。

「珍しいな。少しは改心したのか?」
「あ? 誰が好き好んでこんなのやるかっての」

奈津はシーツと格闘しながらこちらを見ずに言った。

「おまえが行きたいところあるって言ったんじゃん」

サラリと言う。俺は奈津の背中をぼうっと見つめた。それからじわじわと頬が緩んできた。

「……そういうとこ」
「あ?」

聞こえなかったのか、奈津がこちらを向いて怪訝そうに眉を寄せる。俺は静かに首を振った。

「なんでもない。早く終わらせよう」
「おう」

俺の恋人はダメな男だ。何故そんな奴と付き合っているのかとよく聞かれる。
その答えは簡単だ。俺は奈津が好き、ただそれだけ。


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