今日は久しぶりに夢を見た、あの人の夢。今渡草さんの車の中には、俺とあの人に似たあの人と同じ名前を持つ人が居た。其処に居たのは貴方じゃなくてあの人だったのに。それを知っていて其処に居るはずなのに、悲しそうな顔をされることに少しだけ腹がたっていた。
「名字さん、いつまでそんな悲しそうな顔ばっかしてるんすか」
「ごめん、ね」
「迷惑なんっすよね」
だってわかっていながら居るなんて馬鹿だ。もっと馬鹿なのはその悲しそうな顔をさせている俺達だと知っていた。俺達があの人と彼女を重ねるからいけないんだと知っていてもこの苛立ちを止めることが今の俺にはできなかった。
「わかってるはずなのに」
夢の中で笑顔に話し掛けてきたあの人が居ないで彼女が此処にいるから、悲しくて虚しくて仕方なかった。彼女が悪いわけではないと知りながらもこんな態度を取っている自分が嫌だ、それでも止まらなかった。
「名字さんがそこに居るからいけないんすよ」
「遊馬崎くん」
多分今の自分は冷たい目をしてとっても情けない顔をしている、鏡がなくてもなんとなくわかってしまう。こんな顔を見られたくなくて彼女の顔を見ることができなかった。
「私をちゃんと見てよ、」
鼓膜を揺らした声は弱々しく震えていた。でもいつかはそうしなければいけなかったことを彼女は口にした。そして次に現実を突き付けてきた。
「私とその人は違うんだよ!」
「わかってるっすよ」
「私は私なんだよ、その人と同じ場所に居たって何処かその人と似てたって」
その現実はわかっていたのに、俺の心の中を砕いていった。今朝夢の中で見たはずのあの人の顔を思い出すことができなかった。多分本当はずっとあの人の笑顔なんて薄れてしまっていたんだ。
「私を別の一人として見てよ、」
お願いだから…と消えそうな声で言われた。俺の小さな世界の現実は別の色で少しずつ塗り替えられていたんだろう。そう、俺が顔を上げたら泣いていた彼女によって。
もういいと思った。彼女は彼女なんだから、引いていた線を取り除いて俺の世界に受け入れようと思った。
仰いだ先の色は確実で
|
|