短編 | ナノ

「いるんだろ…橋詰」

羽柴の言葉に、後ろの席にいた男はピクリと身体を跳ねさせる。

「もうあいつの姿は見えないよ。橋詰」

後ろにいた男は羽柴の言葉に席をたち、羽柴に姿を現した。
長身の、すらりとした身体。長い脚に、小さな整った顔。
こちらに視線を向けていた女の子たちがきゃ、っとそいつの姿を認めた瞬間声をあげた。


「気づいていたんですか…」
「あぁ、橋詰。
背後からの殺気が半端なかったからな…。お前だろうと思っていたよ」

羽柴達が座っていた背後の席。そこに、橋詰はいたのだ。橋詰。
鷺沼が苦手としている橋詰龍也が。

この場合、羽柴と鷺沼の後をつけてきていた、といってもいいだろう。

「それで…今の話聞いてお前はどうするんだ」

返ってくる答えはある程度わかっているくせに、羽柴はそう投げかける。

橋詰は羽柴の問いに、にっと笑い


「とりあえずは…今から二人の仲を邪魔します…」

そう言って伝票片手に走り去っていった。


綺麗で優しい王子様。
王子様が好きな人は、けして可愛い幼馴染ではない。
一つ上の、ヘタレな男らしい幼馴染なのだ。

もう、ずっと前から恋をしている。
それこそ、物心つくずっと前から。
亮なんか目じゃないくらい、王子は彼を必要としていた。
彼の全てを自分のものにしたいと思うほど、王子様は鷺沼を愛していた。

でも好きな人には素直になれず、ただ邪魔するだけで遠くから見つめることしかできない。
性格からか、プライドがあるから、けして甘えたことは言えない。
だから、彼に近づくものは皆、どうにかして彼から引き離す。
少し病んでる王子様。

鷺沼が煮詰まっている、といっていたが、ずっと何年も前から鷺沼に片思いしている王子はそれ以上に色々と煮詰まっているだろう。


「あいつも王子様に恋すればいいのにね」

羽柴は必死に鷺沼を追う、健気で病んでいる王子様を見て、ぽつんとひとりごちた。


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