短編 | ナノ

昔、まだ僕がゲイを自覚していなかった昔。


昔語りをするようだけど、僕には可愛いなぁ、と思う子がいた。

僕だって、いっぱしの男だ。女の子を可愛いと思うことはある。
まぁ、可愛いと思うだけで、一緒にいたいなぁと思うような恋愛感情はなかったんだけどね…。

小動物に対する気持ちと似ている感じ…と思ってくれていいと思う。
見ているだけで、心がほっこりするくらいの、そんな気持ちだった。


あれは…幼稚園の時だったかな。



その頃から僕は、鼻が潰れていて、タレ目でちょっとぽっちゃりとしていた。
昔から、不細工で、ぽっちゃり系だったんだ。
顔自体は今とあまり変わらない。子供のように顔にはつまめるほどの肉がついているし。目ばかり大きくて、ぺちゃっとしたパグみたいな顔だった。
幼稚園の頃は、まだ、それが子供だから≠ニいうことで愛嬌のある顔、と言ってくれていた人もいる。
大半は、不細工って思ってただろうけどね。


周りの子からは、ぽっちゃって呼ばれていたっけ。
幼稚園で着用する僕の服は、誰よりも横が大きいサイズだった。
身体は大きいし、不細工。さらには、運動神経もない。
僕は幼稚園のときから、周りからちょっとした差別を受けていた。
といっても、けしてイジメなどではない。
ただ近寄りたくないなぁ、とかあの容姿はね…、といった陰口くらいだ。



幼稚園の先生すら、そんな僕を持て余しているようだった。
僕は愛想もいいわけじゃなかったから、どう声をかけていいかわからなかったのかもしれない。
だけど、けして僕は孤独だったわけじゃなかった。
僕には、僕で、我儘だけど常に傍にいた人間がいたからだ。




「ねぇ、ひーくん、もも組のさくらちゃんって可愛いね」


幼稚園の時の僕がそういえば、ひーくんは、可愛い天使のような顔をしかめた。
砂場で二人で作っているお城。いつも、ママたちがやってくるまでこうして砂場遊びをするのが、僕とひーくんの日課だった。
その日もスモックを泥だらけにしながら、僕は秘密の話でもするかのようにひーくんに小声で言った。


「かわいい?」

ひーくんは、お城を作っている手を止めて、うろんげな瞳で僕を見る。


「可愛いの?あれが?」
「うん、可愛い」

僕が再び力強く言うと、ひーくんは僕を見て、はんっと馬鹿にしたように声を立てて笑う。
心底、馬鹿にしたように。

「あんなの、可愛くないよ」

おざなりにひーくんは吐き捨てながら、再び地面に視線をやり、シャベルで土を掘る。
そのいかにも、適当でおざなりな口調にカチンとくる。
別に、そこまでさくらちゃんを好きというわけではなかったけれど、ひーくんの言葉に自分までも否定された気分になった。

少なくとも、さくらちゃんは僕より可愛かったから。


「可愛いよ」

僕は、ひーくんのシャベルを持つ手を取ってムキになる。
ひーくんは、むっと口を口を真一文字に結んだ。


「可愛い」
「あんなブス、かわいくない」
「ブスじゃないもん」
「ブスだよ、あんなの」

ひーくんは、可愛いと言い張る僕に、ブスと言い続ける。
けして、ひーくんはさくらちゃんと特別仲が悪いわけでもなかった。
むしろ、さくらちゃんはひーくんに好意を持っていたはずだった。
さくらちゃんは、お友達の前で、ひーくんが好きッと公言していたくらいだ。

ひーくんもひーくんで、みんなの前ではさくらちゃんに優しく振る舞い、まるで王子様みたいに笑っていた。


「ひーくんが可愛くないと思っても、僕は可愛いと思うの」
「あれが?」
「可愛いもん。先生も可愛いってよくいってるもん。さくらちゃんがクラスで一番可愛いって」
「ふーん、ともちゃんは、自分がブスだから、ブスなやつを見ても、そう思うんだ」

にや…、と子供ながらに、悪い笑みを見せるひーくんに僕の涙腺は潤んでいく。
ただ僕がブサイクってだけじゃなく、視覚まで通常の人間と違うと区別された。


「ひどい…」

ひーくんの手を掴む手に、ポタポタと涙が落ちる。
ひーくんはいつも、そう。
他人の前では、すっごい王子様で、キラキラした性格のいい子なのに。
同じ年の僕の前では、いつも、ひーくんは僕を虐める。

いつも、僕をいじめて喜んでいるんだ。
みんなの王子様なのに。
王子様は、悪い王様なんだ。


「ひーくんの、意地悪」

僕が怒って、顔を真っ赤にしてそういえば、ひーくんはニヤリと笑い、

「ともちゃんが、不細工だからいけないんだよ」

僕の涙で濡れる頬を舐めた。


「ともちゃんの泣き顔、見るに耐えないよ」


ニッコリと笑う顔は、王子様でもなんでもない。ただの、意地悪なものだった。
ひーくんは、とても意地悪だった。
昔っから。


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