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「ご結婚…なさるそうですね…、王様」
「あ…?ああ、」
「オメデトウ、ゴザイマス」
哀れな王。切望していたアリー様は、貴方のすぐそばにおられたのに。
哀れな王。こうして人魚の面影を探しているなんて。
真実を知らずに、他の女と結婚するなんて。
嗚呼、なんて、哀れ。
貴方は幸せ?
王。貴方を助けた人魚姫は、もういないのですよ。
会いたいと願っても…ね。
悪い魔法使いが、泡にしてしまったんです。
人魚姫の思いなど、考えないで。
「王、」
よろめく足をなんとか踏み留めて、王に振り返る。
「貴方は…哀れですね…、」
海を見て、歌を覚えて。
なのに、アリー様の存在に気付かなかった。
愚かすぎる…
愚か者。
「貴方は、哀れです…、」
くっと、口端を上げる。
そんなボクに王は、目を細めて、睨みつけた。
交わる視線。お互いに、視線を逸らさない。
逸らせない。
「俺が…?」
「貴方は、本当に大事な存在を見つけることができなかった。大切な存在を、見落とした…ボクからしてみれば、哀れな王ってことです、」
「お前は…、なにを知っている?」
眉を吊り上げて、尋ねる王。
憤っている?意味がわからなくて?
ボクがなにを知っている探っているのかな?
「すべて、だよ。全て知っている」
全て知っている。
アリー様の気持ちも、消えた瞬間も。
この男よりも…。
「全て…?お前…何物…なんだ…?」
「ボク…?さあね…。」
言わなくてもいい。
言う必要など、ない。
だって、ボクは…。
「ただ、ね…、ボクは貴方に復讐したいって思っているよ、」
哀れな哀れな王に。
ボクの人魚姫が消えた代償として。
復讐したい、って思っているよ。
呆然としている王に背を向けて、今度こそ、王の元から去る。
ザザン、ザザン、と波の音がする。
脳裏で蘇る、先ほどの歌。
アリー様が謳われていた、歌。
優しい調べの人魚の歌。
「アリー様…、」
ぽつり、ぽつり、知らずにボクの頬を涙が滑る。
悲しみは、まだなくなっていない。
アリー様をなくした、悲しみは、まだ…。
消えそうに、なかった。