短編 | ナノ

それから、貴方…アリー様は、度々ボクに会いにやってきた。
…といっても、最初の頃は恐る恐る…といった感じだったけれども。


遠くの岩影からじ…とこちらを見つめ警戒している姿はまるで小動物のようでもあった。
ボクに慣れるまで、多大な時間がかかったけれど、ボクに慣れた彼女はまるで小鳥のヒナのようにボクを慕い、ボクに会いに来る。
ボクと話すだけ、それだけのために。


 アリー様は、ボクのことを、親しみを込めて、「カリア兄様」と呼び、僕はアリー様のことをアリー様と呼ぶようになった。

なぜさま付で呼ぶのかと問われれば、アリー様の空気がそうさせた…とでもいおうか。
その高貴なオーラから、つい、さま付けをしてしまうのだ。


 アリー様は、どこか控えめで、上品で、小鳥のように愛らしい。
それに博学であり、陸に興味があるらしく、度々ボクに地上についての話をしてくれとねだった。

アリー様のほかにも人魚はいるのだが、その人魚の中でも、地上のことはタブーにされているのだが、人魚たちは地上にあこがれており度々地上の話題が出るらしい。

アリー様も初めは興味なかったものの、話を聞くにつれて、地上に興味を持ったらしかった。

ただ、厳格の父親の手前、おおっぴらには、興味があることを知られてはいけないらしい。


「カリア兄様は、魔法使いなのですか」
「そうですよ…」
「ご本で見たことあります!素敵ですね!
なんでもまほう≠ニいうものは、奇跡をおこせたりするんですよね。私を助けて下さった時も、その手に何か持っていらした…」
「あれは、はさみという刃です。そうですね、あの時も魔法を使いましたね…」

海の岩に座りながら、目を輝かせて尋ねるアリー様に微笑みながら、ことばを紡ぐ。
アリー様は、どんな話でも目を輝かせて、ボクの話に耳を傾ける。


「魔法って素晴らしいですね、なんでもできるのですか?」

無邪気に聞く、アリー様。

ボクは苦笑し、アリー様の頭に手を置き、話しかける。

「なんでも、できます…ただ、ボクには自由がなかった。ただの道具だったのです」
「…?道具…?」
「ええ。ボクは王の道具でした…。戦争のための…ね…」
「戦争の…?」
「所詮、大きな力は、誰かに悪用されるものです。
利用し、利用されて、この世は廻っていくもの。

損得関係で、付き合うもの、なのですよ…。ボクは王にとって、利用価値があるものだったのでしょうね。魔法を王の為に使わされましたよ。逃げることだってできた。

やろうと思えば、ね。それでも、ボクは王にただ使われただけ…。
奇跡の力を、王に与えただけだった…」

魔法使い、といっても、ボクの今までの人生はよいものか?と聞かれれば、はたしてそうだろうか、と首をかしげてしまう。

なんでもできた。なんでも、自分の手に入り、欲しいものなどなかった。
全て自分どうりになった。

だけど…いつも、ボクは孤独だった。
いつだって、ボクは一人だった。

その偉大な力を持っても、ボクはいつだって、一人ぼっちだった。
魔法でも、孤独はなくせなかった。
力なんていらないから、誰かが側にいてほしいと思ったのは、いつのことか・・・。


「ここに来たのも、王の追ってから逃げるため、ですよ。
ボクのことを、きっとあの強欲な王は探すだろうから…」
「王様…ですか」
「そう、人間の、王。人魚には王様はいないのですか」

そういえば、人魚…魚には王などいるのだろうか。
海の世界は、とても平和で、そういう身分もありはしなそうだけれど。

ボクがそう尋ねれば、アリー様は一瞬、顔をこわばらせ、うつむいた。
明らかに、それまでのにこにこと笑っていたアリー様の顔が暗くなっていく。


「アリー様…?」
「…いますよ…」
「え…」
「私の父…、私の父は、人魚の王様なのです…私は王の子供…」

アリー様にしては、抑揚のない淡々とした、言い方。
やや不振に思えども、なんていえばいいかわからない。

「父…では、アリー様はお姫様なのですね」

ボクは当たり障りのない言葉で、アリー様に返した。

「…そう…ですね…
いえ…」

曇る、アリー様の顔。

「ボクには話せない?」
「えっと・・・」

歯切れ悪く、言葉を捜すアリー様。
なにか、あるのだろうか…。
ボクに教えたくないことでも、あったりするのだろうか…


知りたい。聞いてみたい。
でも…。


「私…は、」

「言いたくないならいいですよ…」

アリー様へ無理に聞きたくない。言いたくないのなら、なおのこと。

アリー様に、困った顔は似合わない。
出来れば、笑っていて欲しい。


そっと頭を撫でてやれば、アリー様は「カリア兄様…、」と甘えたようにボクの名を呼び、その手を甘受した。

温かなものが、胸を息巻いた。
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