作品 | ナノ
※嘔吐表現、吐瀉物を舐めとる描写あり
※苦手な方はご注意ください





名前ちゃんの身体は所謂普通の女の子とは違って、病的なまでに細かった。ブラジャーは黒を好んでつけていたし、ワイヤーのその下に広がる肋骨は、ひっそりとその主張を強くしていた。ーー今までーーそんなに数は多くないが、付き合った、そういった関係になった女の子たちの中でも、ダントツに名前ちゃんは細い。きちんと食べているのか心配になるほどだ。俺は#なまえ#ちゃんのことを、細すぎて気持ち悪いとも思っていたし、ただ快楽に身をよじる様は、綺麗だと思っていた。最初は気持ち悪く思っていたそれも、回数を重ねると何となく触り心地もいいような気がしてくるから不思議だ。決まって情事の時は肋骨をなぞっていたし、名前ちゃんは浮かび上がる肋骨を触られることに「やめて」と口にしていたけれど、本気で嫌がってはいないようだった。

そんな名前ちゃんの人差し指と中指の中手骨には、変なタコのようなケガのあとのようなものがある。それが吐きダコだということに気づくのには、あんまり時間がかからなかった。
「太るのが怖いの」
それが名前ちゃんの口癖で、ご飯を食べたあとは必ずといっていいほどトイレにこもっていた。ーー1度だけ、名前ちゃんが吐いている姿を見たことがある。それは予期せぬ嘔吐で、目の前で唐突に。その日は俺の作ったチャーハンを食べたあとだったから、もしかしたら吐くほどまずかったのかもしれない。それはそれでショックだが、吐瀉物で白く汚れたワンピース、口元、それがやけに綺麗に見えて、部屋に広がる独特の臭いも気にならなかった。大丈夫か? と背中をさすって、時折口端から垂れた吐瀉物を舐める。美味しくはないしむしろまずい。それから軽いキスをして、酸っぱいにおいのする口内を蹂躙する。荒北あたりが見たら正気の沙汰とは思えないだろうが、正直、名前ちゃんのものだと思えば、吐瀉物でさえ愛しく思えるから不思議だ。
「ごめんね尽八くん」
「どうして謝るのだ?」
「汚いから、……嘔吐とか。嫌でしょ、こんな、……くさいし」
「……いや、」
綺麗だ、と笑えば名前ちゃんは少し嬉しそうな、けれど迷惑そうな、何とも言えない表情をした。何回か目線を彷徨わせたあと、少しだけ口角を上げて「ありがとう」と呟く。そんな名前ちゃんにキュンと胸が高まって、思わず抱きしめた。また痩せた気がする。名前ちゃんの身体はほとんど骨と皮だ。それと、最低限の肉。抱きしめ心地ははっきり言って最悪だし、胸もない。太もももかたい。……名前ちゃんだからこそ、こんなにも愛おしいのだ。
「尽八くんは優しいね」
「そうか?」
「うん。何もないでしょ、わたし。みんな、つまんないって言って別れていくの。半年も付き合ってるのは尽八くんが初めて。優しくなきゃできないよ」
名前ちゃんの腕が俺の首に回る。……名前ちゃんは俺のことを優しいと言う。優しければ誰でもいいの、とのたまっていた名前ちゃんを思い出した。それに引っかかっているのが俺と、……。ーー荒北は名前ちゃんを放っておけないという。正直どちらが彼氏なのか、分からない状態ではあるがーー今は俺の彼女としてここにいる、それだけで十分だった。なんと不毛な。
「名前ちゃん、愛しているよ」
名前ちゃんは何も言わない。少しだけ口角を上げてーー俺を見る。けれど名前ちゃんの瞳に俺は映っていない。……名前ちゃんは、いったいどこを見ているのだろう。



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