作品 | ナノ
全部、全部、私が悪かった。きっと、100人中……うーん、まあ、多数の人がそう言うのだろうし、中にはこの気持ちに共感してくれる子も居るのかもしれない。ただ、どうやら私は自分の事をこれまで理解出来ていなかったらしいのだ。

何時もの時間。静かな空き教室。そんな空間でぼうっとしていれば、それに苛立ったのか、腕の中に無理矢理引きずり込まれ驚く暇もなく、次には酸素を奪われる。情けない声を出した私の口内を楽しむように弄んでは、身体の自由を奪っていく。酸素が欲しい。段々激しくなっていくそれに逃げるように顔を背けようとも、させてくれない。けれど実際は逃げようと見せかけて喜んでいる。そう、私はこの強引さが好きなのだ。

「何処見てんの」

何も答えない私に、彼は呆れ口調で、まあ誰を見てたなんか分かってるけど。と、興醒めしたのか抱き込んでいた私を解放した。それを寂しく思ってしまう自分に何とも言えない気持ちになる。

「……大会、近いんだって」

だから、余計に構ってくれなくなっちゃった。たまたま視界に映った、アイツを見つめていたら、きゅうっと胸の奥の奥が締め付けられた。知らなかったの。自分がこんなに弱かったとか。はあ、と溜息を吐いていると、小さな舌打ちが上から聞こえ、今度は彼の膝の上に乗せられた。これ、見られたら不味いかも。なんて思いつつ、体温の違いに、毎回心拍数が上がる。つまり、私には、我慢という物が出来なかったのだ。そして今に至る。……だって、構ってくれないのが、悪いと思いませんか。身体の触れ合いが無い訳ではない。でも、考えて見れば、アイツとこんなに長い事密着した事が無いかもしれない。

奥底から、段々と腐っていくのが解る。けれど、元々ぐらぐらと不安定な器だったのだ。気が付けば、濁った泥水が溢れ落ちていく。綺麗な水はもう存在すらしていなかった。それを嘲笑うかのように泥水は増えていくばかり。そんな時、私に甘いお誘いが舞い込んできた。ただそれだけの事。寂しいなら俺と一緒に居よう。その言葉に少なからず揺れた。それでも初めのうちは、馬鹿馬鹿しくて断った、筈だったのだ。けれど、欲に飲まれてしまった。あ、何かこれ全て彼のせいにしているみたい。それはちょっと違う。

「……何で今泉と付き合ってんの」

「……好き、だから?」

答えになっているのか、なってないのか微妙だなと苦い顔をした彼に、とぼけるようにそうかな、なんて返す。こうして時間を共にするようになって、私の弱さから、彼をずるずると深い沼まで引きずり込んでしまって、何て女なのだろう。オアソビで済んだら、まだ良かったのだ。一ヶ月前までは、アイツの事が……今泉の事が、好きで、好きで堪らなくて、何度悩んだのか分からない。嫌われたくない、重い女になりたくない、邪魔になりたくない。付き合う前に、部活優先になるけど。それでも良いならと、了承してくれた今泉を裏切ったのは、私で。行き場の無い感情が積み重なった結果が、これだ。付き合えた当初は、幸せだったのに、疲れてしまったというか。勝手だなあとは思うけれど。

「なー、やっぱり俺じゃ駄目?」

甘い誘惑が、私を魅了する。俺の方が絶対大事にする。確かにイケメン度は負けるけどなー。なんて言いながらも笑いながら私を離さない所を見る限り、相当な自信があると思われた。それを曖昧に交わし、今度は私から口付けるんだ。秘密の逢瀬を楽しみましょう?なんて。






「……お前、まだ残っていたのか」

「あー、お疲れ、さま」

あああ今泉のカノジョさあん!お久しぶりですうー!ほんまなんでスカシなんかと。おいスカシ!調子に乗るなや!その顔ものっそい腹立つわくそ!と相変わらずなテンションの鳴子と、じゃ、じゃあ!僕帰るね!鳴子くん!行こう!なんて、挙動不審なのに空気を読んだ小野田くんに会釈をし、今泉と向き合った。そんな彼の目は、何故こんな遅い時間までと訝しげ。すうっと、心が冷えていく気がした。

「ちょっと本に夢中になっちゃって」

「……またか。帰るぞ」

送る。と、面倒くさそうに、見える彼の仕草に萎えてしまう。以前は、ポジティブよろしくな感じで、照れているのだと捉えられていた、筈なのに。それでも、隣に居続けるのは、今泉が好きだから。自分から、終わりの言葉を告げられない。好きだから。あれ、もし今泉にさようならと告げられたら、私はどうなるのだろう。ああ、もう良いや面倒くさい。

「ありがと……ねえ、ごめんね」

「いや、」

遠慮がちに服の裾を掴んでも、振り払われなかった事に、安堵する。それでも、ねえ、今泉。わたしの言いたい事、解る?この、ごめんに、どんな意味があるのか深くは考えていないのでしょう。

「わたしってウサギなんだって」

ガラじゃないでしょー。と笑えば、変な顔をして此方を見ていた。こうやって悩んでいても、きっと私は明日も裏 のオモイビトと過ごして、帰りは表のオモイビトとこうして帰るのだろう。ほらだって私は、構ってくれないと寂しくて死んじゃう可愛いウサギさんらしいから。そう言えば、この前着ていた今泉の洋服の柄、可愛いウサギだったな。お揃いだね。

「ねえ、今泉。ウサギ、好き?」


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