作品 | ナノ
「5年くらい前に買ったストーブが、とうとう壊れたの。元々リサイクルショップで買ったものだし、それにしては長く持った方かなって思ったんだけど。叩いたら直るかなって思ったら、直らなかった」
名前はそう言ってにこりと微笑んだ。照明を落とした薄暗い部屋に、ぼんやりと白磁のような肌が浮かび上がる。名前の肌はきめ細かく滑らかで、それでいて瑞々しさに溢れていた。俺がとうに失った若さが、名前の中にぐろぐろと渦巻いていた。
「そうか。それは、残念だったな」
素直に感想を述べると、名前は表情を崩さず2、3度瞬きをした。最近マツエクを始めたらしく、この間よりも濃く、量が増えた睫毛が上下する様をじっと見つめていた。ーー最近、名前は真波に似てきたように思う。

これは単なる錯覚かもしれないし、できることならば錯覚であってほしい。好きな女が自分のよく知る相手に寝取られるのは想像もしたくないし、また、そういった関係になるのも嫌だ。俺は荒北のようにバツグンに勘が冴えている方ではないので、憶測に過ぎないが。
「名前は最近、真波に似てきたな」
冗談のつもりで、薄く笑いながら言えば、ピクリと名前の肩が震えた。
「……そうかな」
気のせいじゃない? と名前は続けた。このとき初めて、俺は名前が嘘をつくのが下手なことを知った。内容がどうであれ、人は好意や尊敬の念があればその人に似てくるのだ。名前と付き合うようになってもう5年近く経つが、名前が俺に似てきたなんて、荒北や隼人にも言われることはなかった。どうして真波なんか。そんな思いがフッと浮かんで、醜いなと歯噛みをした。名前の前では綺麗でありたい。そんな俺を荒北は「女みてェ」と嘲笑うが、いいかっこしいなだけなのだ。誰だって好きな女の前では格好悪いところを見せたくないのが常だろう。
「……知ってるか、名前。歳が4つ離れていると1世代も世代が違うんだ」
「じゃあ尽八くんとは2世代も違うんだ。おじいちゃんだね」
「俺は、名前が眩しいよ」
そう言って名前を抱きしめた。拒絶をされなくてホッとしている自分がいた。名前がどうして拒絶をすると思ったのかは分からない。けれど、もう終わりだと思った。世の中にはどうしても抗えないものがあって、きっと名前にとってはそれが真波との関係なのだろう。
「尽八くんが、いなくなったら嫌だなあ」
ボソリと、名前が耳元で呟いた。俺もだ、とすんでのところまで出かかって、それを飲み込む。名前が真波ごと愛してくれと言うなら、俺はそうするべきなのだろう。目を閉じる。名前の静かな息づかいが聞こえてきて、手放したくねぇなあと思った。
「お別れだ、名前」
俺は今、どんな顔をしているのだろう。


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