作品 | ナノ
「ごめん、飽きちゃった」
そう言えば目の前にいる元彼氏は、茫然とした表情を見せた。
罪悪感なんてものは湧いていない。
昔はそんなものがあったかもしれないけど、もう忘れちゃった。
「もう興味ないの。バイバイ」
ヒラヒラと手を振ってその男に背を向ける。その元彼氏は何か言って騒いでいるけど、もう忘れちゃった。
「次の男見つけよーっと」
あ、早速イケメン発見。
見たことある人だと思ったら、うちの学校の生徒だ。
自転車競走部?だっけ。
まぁ、そんなものどうでもいいや。
彼はちょうど一人。
お茶にでも誘っちゃおう。
男好きだのなんだの言われても気にしないもん。
足早に彼に近付いて、私は新開隼人に声を掛けた。
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隼人は私が男好きだということを知らなかった。むしろ私を優しくて美人な優等生だと思ってたみたいだ。
そのおかげもあってか、隼人とはすんなり付き合うことが出来た。
私がたくさん浮気しちゃうことも知らないなんて、隼人は馬鹿だなぁ。
どうせすぐ飽きちゃうだろうけど、それまで思いっきり弄んであげる。
私が笑みを浮かべれば、隼人も優しい笑みを浮かべるんだもの。
あー、可笑しい。
隼人はなぁーんにも知らない。
私が男好きなことも。浮気するのか楽しいことも。
だから最初は捨てちゃうつもりだったの。満足したらまた他の人に移ろうと思ってた。だって隼人は何も知らない。私は浮気なんてしないと思ってみたいだから。
でも隼人は私が思っていたよりずっと優しかった。
隼人と付き合っている時に浮気しても、隼人は許した。むしろ自分の愛が足りなかったねと言って、今まで以上に愛してくれた。
他の男はみーんな怒ったのに。
こんな私が大好きだと言ってくれる。
馬鹿な男。
「男好き」「最低」そんな事ばかり言われる私を本気で愛すなんて、隼人は本当に馬鹿な男だ。
でも好き。
こんな私でも愛してくれる隼人が好き。
隼人好き。愛してる。
でもこれはきっと私に対する報いだね。
隼人が浮気しているのに気付いたのはいつだっただろう。
隼人が私の浮気を許してから、私は浮気をしなくなっていた。
隼人だけを愛していたんだもの。
他の男なんかいらないわ。
全身全霊で私の愛を注いだのに、隼人は浮気をしている。
もう愛想尽かされたのかな。
私が隼人に捨てられるのは何時かな。
嫌。捨てないで。私を見てよ。
私が今まで振って弄んだ男たちはみんなそう思っていたのだろう。
愛する人に捨てられるのを、ずっと怖がっていたのだろう。
怖い。怖い。私だって怖い。
『いつか痛い目見るよ、アンタ』
昔、私が奪った男の元彼女が言った言葉。
えぇ、全くその通りね。
「……隼人は私のこと好き?」
「当たり前だろ」
嘘。嘘ばっかり。
以前の私もこんな感じだったんだろうな。
うわべだけの付き合いをして。
偽りの愛の言葉は口にして。
隼人は馬鹿な男じゃなかった。
馬鹿なのは私。
私が馬鹿な女だったよ。
「隼人好き。私だけを見てよ」
もし、私が男好きな女じゃなかったら。
もし、私が浮気するような女じゃなかったら。
今すぐにでも隼人の事が嫌いになれたら、全て丸く収まるのに。
でも無理だね、私は隼人の事が好きだから。
きっと隼人に振られても、私は隼人のことを忘れることができない。
きっと他の男に移ることもできないんだろうね。
だって私の頭の中は隼人でいっぱい。
恋を知らない私。
愛される喜びを知らない私。
純粋な心を持った私。
浮気を知らない、私。
あぁ、あの頃の私が懐かしい。