作品 | ナノ
高校の頃から隼人くんが女の子を取っ替え引っ替えしてるのは知ってた。それでもいいから付き合ってって言ったのは私だから、隼人くんが私以外の女の子とキスしようがエッチしようが何も言わなかった。見て見ぬ振りしてた。隼人くんはそんな私にいつもこう言うのだ「おめさんは優しいな。おめさんはいい女だ。おめさんみたいな子が彼女で良かった。」って。頭を撫でるオプション付きで。それをすごく嬉しく思う私は感覚が麻痺しているのだと思う。馬鹿か。私は馬鹿か。浮気されてんだぞ。普通別れるだろ。なんでこんな冷静でいられるんだよ。違う、冷静なんじゃない。もう諦めてるんだ。別れないんじゃない、別れられないんだ。隼人くんが好きだから。そうやって毎日毎日四六時中自問自答。

「なに、やってるの、隼人くん」
「………あ、いや〜」

隼人くんと私が寝るベッド。そこにいつも隼人くんは知らない女の子と寝てるんだ。私が帰ってくる時間を知ってるくせに。そのシーツ、誰が洗濯すると思ってるの?私だよ?なんで知らない女の子の精液が付いたシーツを私が洗濯しなきゃいけないんだよクソが。
女の子が私の横をすり抜けて部屋を出て行った後、隼人くんはパンツだけ履いて私の元へやってくる。まだ興奮状態のソレを何度蹴ってやろうと思ったことか。というかこの状況で勃ってるのもすごいと思うけど。

「ソレ、どうにかして」
「はいはい」

悪いと思ってない。別れる、別れてやる。もう私は隼人くんじゃなくてもいいから。こんな浮気男よりだったらその辺に寝転がってるホームレスの方がまだマシ。いや、それは言い過ぎか。
トイレから戻ってきた隼人くんは、シーツを洗濯機に入れてる私を見つけて後ろから抱きしめてくる。いつも隼人くんは違う匂いを纏ってる。それは言わずもがな女の子達の匂い。

「隼人くん、話があるんだけど」
「なに?」
「あのさ、別れてほしい」
「………え?」
「ごめん。もう付き合いきれないよ。」

そう言うと、泣くのだ。隼人くんが。だから私は未だに別れられないのだ。初めて別れを切り出した時、隼人くんが泣くところを初めて見た。いつも飄々としている隼人くんが、レースで鬼のような形相でペダルを回す隼人くんが、涙を流してるなんて。おかしな話、その時初めて私は隼人くんを、この人もちゃんと人間なんだなあって思った。隼人くんは泣きながら私に謝って、縋るのだ。おめさんしかいないんだって。他にも面倒見てくれる女の子いるでしょ、私よりも隼人くんを満足させられる女の子がいるでしょ。他にも言いたいことはいっぱいあるのに、それは喉から出てきてくれなくて、私はいつも許してしまうんだ。わかった、もう、しないでね。なんて、馬鹿みたいな言葉を呟いて。そうすると隼人くんは私にキスをして、本心ではない、ただのエゴであろう「愛してるよ」を囁いて私を抱くのだ。こうしてこのまま、私と隼人くんはダラダラと付き合っていくんだなあって。
だけど、終わりは呆気ないものだった。

「………はや、と、くん…っ」

今まで私が我慢できたのは、きっと、見つけた時に隼人くんがすぐに私の存在に気づいてくれていたから。だけどその日は、隼人くんは女の子を貪るのに夢中で、私が呼ぶ声も届かないほどだった。暫く情事を見せつけられた挙句、隼人くんは女の子の中に出した。私の目からは堰を切ったように涙が溢れ出した。やっと、わかったんだ。隼人くんがしていることは普通じゃない。私は隼人くんに必要とされてない。私も、たくさんいる遊び相手のうちの一人だったんだって。そう思ったら悲しくて、哀しくて、やっと、涙が流れたんだ。

「別れよう」

それを言うのは、私の役割だったよね?どうして隼人くんが言うの?

「私、隼人くんのこと好き、なのに?」
「泣かれるの、好きじゃないんだ」
「………なにそれ」
「ごめんな」

いつも隼人くんは泣いたら許してもらえてたじゃん。どうして私は泣いても許されないの。どうして泣いてる私を側においてくれないの。おかしいよ、そんなの、おかしい。隼人くんの顔はすっかり冷めきって、既に彼の中に私への愛情なんて無かった。いや、最初から私への愛情なんて無かったのかもしれない。泣かずに、いつもみたいに私が隼人くんに別れようって突き放していれば、隼人くんはまだ私に縋ってくれたのかな。また、頭を撫でたり、キスをしてくれたり、愛してるよって言ってくれたのかな。だったら、泣かなければよかった。この世界は、隼人くんが泣けば許されるのに、私が泣いても許してはくれないんだね。おかしいよ。

そして私は隼人くんのいなくなった部屋でまた泣いた。


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