無自覚さん | ナノ



月日


日向は俺の幼馴染みだ。ずっとずっと傍で見てきた。
喜びも、悲しみも、怒りも、悔しさも、誰より何より近い場所で、共有してきた。日向のことは、俺が一番分かっている。逆に、俺のことだって、アイツが一番分かっているだろう。
日向が大事だ。護るべきものだ。

だから、お前は許されない。



「木吉はさ、日向のこと、どう思ってるんだ?」
「どう、ねぇ」

追い詰められたこの状況で、それでもゆったり笑ってられる肝の座り具合には感服する。

「良い奴だよ。いつだって俺の膝を気にかけてくれるし、バスケに――」
「そっちじゃない。お前の、もっと心の底にある方だ」

言葉を遮ると、木吉は僅かに目を細めて押し黙った。最初から模範解答なんて求めちゃいない。人より優れた目は、僅かな動揺すら見逃さない。
それが、日向のことなら、尚更。

「……参ったなぁ、伊月には叶わないよ」

降参、と両手を上げて、木吉が困ったように笑う。ちっとも困っていない癖に。木吉の纏う空気はさっきと全然違う。どこか夢見がちな目は、日向を思い出しているのだろうか。

「日向が好きだよ。大好きだ。日向の頭の先から爪の先まで、全部全部、俺のものにしたい。俺だけを考えてくれたら、って、ずっと思ってる」

――――ほら、みろ。
剥き出しにされた、黒い感情に、胸がむかむかする。木吉が常と変わらない笑顔で言うから、なおさら気味が悪い。

「そんなことだろうと思った。頼むから、邪な感情で、日向を困らせないでくれ」




木吉がおかしいんだ、と、日向に相談を受けたのは昨日のことだった。帰ろうとしていた所を引きとめられ、部室で二人きり。

「木吉に、抱き締められるんだ。別に、嫌な訳じゃない、アイツだって誰かに頼りたいときがあるだろうし、俺の胸くらい、いくらでも貸してやる。……でも、」

最近、その頻度が尋常じゃないんだ。教室でも、廊下を歩いていても、死角に引きずられて、抱き締められるんだ。流石に部活の時はねぇけど、帰りとか、着替えの時とか、二人っきりになったら、必ず、俺を。―――なぁ、

「木吉が、何考えてるか、分からねぇんだよ」

日向は、無意識にだろう俺の制服の袖を握ったまま、そう呟いた。いつも、後輩を、チームを引っ張らなくては、と張った肩は力無く落ちて、とても見ていられない。俺が、守ってやらなきゃ。そう思った。




「本当に日向が好きなら、日向を苦しめるな。お前が考えてる以上に、日向は脆くて弱いんだ」

そう、日向は。皆が考えてるより、ずっとずっと繊細で、傷つきやすくて、優しいから。

「それこそ、俺が支えてやらなきゃいけないくらいに、」

日向は、俺でなくちゃ。俺以外に、誰が日向を支えてやれば―――――
―――あれ?
どく、と心臓が大きく脈打つ。黙っていた木吉が、ゆっくり口を開いた。

「なぁ伊月。1つ良いか」

おかしい。待て、こんなのは違う。俺が言いたかったのは、こんなことではなくて、
いつの間にか俺の目の前に来ていた木吉は、薄っぺらな笑顔を貼りつけたまま、俺の胸を、とん、と指で押した。

気付いては、いけないのに、

「お前のその感情は、俺のそれと、何が違う訳?」


………………あ、れ?


愛おしさとは罪であればよかったのだ


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