赤司 「……今考えると、君は、やっぱり、正しかったんじゃないか、って思うんです」 ベンチに座り、静かに呼吸を整えていた黒子が、ぽつり、扉の奥の歓声に掻き消されてしまいそうな声で呟いた。まさか、テツヤからそんな言葉が聞けるとは思っておらず、凭れかかっていたロッカーから腰を浮かす。 「やっと認めたね、テツヤ」 「君の考え全てを、受け入れた訳ではありません。でも、最近、そう考えられるようになりました」 あの日から、随分掛かってしまいましたね、ごめんなさい。 柄にもなく目頭が熱くなった。これから高校最後の試合だと言うのに、しゃんとしなければならないのに。 歓声が聞こえる。 「行きましょう。良い試合に、しましょうね」 照れたように差し出されたテツヤの右手に、自分の右手を返す。 「ああ」 やっぱり僕が選んだ道は、間違ってなんかいなかった。テツヤも、涼太も、真太郎も、大輝も、敦も、皆帰ってきたじゃないか。 胸の中に暖かなものが込み上げる。もうきっと二度と失われない。もう絶対に迷わない。 そう、全てに勝つ僕は、全て正しいのだから。 「あの、冬に運ばれてきた患者、まだ目覚めないんですって?」 「ええ、大会中に倒れて、それっきり」 「可哀想にねぇ。キャプテンだったんでしょう?準優勝杯、誰が持ち帰ったのかしら」 「さぁ。今日も誰かお見舞いに来てたじゃない?毎日毎日、ご苦労様よねぇ」 「よっぽど人気者だったのねぇ。……そう言えば、この間来てた金髪の彼、なかなか素敵じゃなかった?」 「しっ!声が大きいわよ、婦長にどやされたいの?‥‥あ」 「ああ、早く仕事に戻りましょ。忙しいったらないわ」 泥色のシャングリラ ---- 何もかも思い通りになるさ、夢だもの |