言わせんな恥ずかしい | ナノ



花日


ごす。
振り上げた拳が、思い切り良く花宮の腹に決まった。
ぐぇ、と蛙が潰れたような声をあげて、花宮がその場に崩れ落ちた。何すんだ、日向。ぜーはーぜーはー肩で息をし、這いつくばってもがき苦しがる姿に、すっと溜飲が下がる。ざまぁ。

「分かってんだよ、てめーがどれだけ悪どい奴かなんてよ」

例えば、木吉の膝のこと。霧崎戦でのラフプレー、顔を合わせる度に交わされる嫌味も、人を馬鹿にしたような口調も、淀んだ目も、全部、全部。

「なまじ頭が良いだけ、余計なこと思い付きやがって、そんでそれを可能にするだけの能力も人望もあるってんだから、尚更タチ悪ぃし」

思い出したらまたムカついてきた。拳をぎゅ、と握ってなんとか耐える。
何言ってんだこいつ。
花宮の目は雄弁にそれを語っていたが、無視だ無視。

「けど、肝心な所で馬鹿」
「あ゙?」

流石に花宮から不満そうな声が出た。おいつまり自分が頭が良いことは自覚してる訳だな、死ね。黙って聞けと睨みを効かせれば静かに食い下がった。

「本当は、離れたくなんかねぇ癖に」

なんで、
音はなく、ぱくぱくと花宮の口が動く。唖然とした表情の花宮、本当に分からないらしい。俺なんかよりずっと頭が良くて、気が回って、器用なのに。こんなに無防備な花宮の姿を、知っている奴が他にいるのだろうか。そう思ったら、笑えてきた。
蹲ったままの花宮と視線を合わせる為に、膝を折る。

(ねぇメガネくん、俺もうお前とは会わねぇわ)
―――――は。
出たのは間抜けな声だった。散々引っ掻き回して、連れ出して、挙げ句、これ。(面倒くさいんだよ、お前といるの)
(もう、飽きた)
(だから、会わない)
決して目を合わせようとはしない花宮に、一気に怒りが湧いた。
何も分かっちゃいない花宮が、悲しかった。
だから殴った。

自分が、
泣きそうな顔してたの。
気づいてた?


「分かれ、」
「分かれよ、ダァホ」

俺は、もう、とっくに。


君の総てを愛す覚悟は出来ている


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