花宮×日向 「メガネくん、ちょうだい」 嵐は突然やってきた。突如体育館に押し入った一団は、唖然とする周りを無視して、一直線にシュート練をする日向の元へと足を進めた。誠凜バスケ部に眼鏡は一人しかいない。ぽかんとしている日向に、花宮はにっこり微笑んで見せた。 「ね、メガネくん。ウチ来ない?」 「……………………………………あ?」 誰より何より衝撃から立ち直るのが早かったのは木吉だった。庇うように、日向と花宮の間に巨体が滑り込む。 「駄目だぞ、日向は俺のだから」 にっこり。その発言に、花宮は片眉を上げ、部員はやれやれと溜め息を吐き、日向は真っ赤になった。容赦なく木吉の背中に日向の頭突きが落ちる。 「痛い!日向痛い!!」 「黙れ!誰がてめーのだって!?ああ?!」 「やべーほもだー」 「こら止めろ。失礼だろ」 死んだ魚の目の発言を、すかさず花宮がたしなめる。しかし奴が言っても薄っぺらすぎて、寧ろ「失礼だ」の後に、(笑)が見える気がして。益々日向の神経は逆撫でされた。 「花宮…テメェ何のつもりだ。どの面下げて来やがった」 「だから言ってるじゃん。ウチに来てよ順平クン」 存分に殺気を込めた眼力を向けても竦みもせず、馴れ馴れしい態度をとり続ける花宮に、日向の怒りゲージはmaxを超えて寧ろ混乱し始めていた。 え、俺コイツと戦ったよな?んで勝ったよな?つかコイツは木吉からバスケを奪った張本人で、どう足掻いてもムカつく奴な訳で、えっと、いつの間にこんな仲良く話しかけられる仲になったっけ? ズキズキ痛んできた頭は、多分気のせいではない。 「名前で呼ぶんじゃ、」 ねぇ、と言う前に、顔の横を物凄い速さでボールが通った。壁に当たったそれは、バァン!と高い音をたてて何処へともなく転がっていく。しん、とした体育館に、黒子の声が凛と響いた。 「キャプテンから離れて下さい」 「黒子!?」 部内では常識人の部類に入る後輩が、何も言わずに人に(殺人級の)パスを放つなんて、尋常ではない。日向は一層困惑した。 軽く身をずらすことでパスを避けた花宮は、転がっていくボールを一瞥し、コートの反対側にいた黒子を睨み付けた。 「相変わらずすげー威力だな。……やっぱ潰しとけば良かったなァ」 瞬間、空気が変わった。 側にいた火神が咄嗟に黒子を背に庇う。日向は目の前の木吉の纏う空気の鋭さを間近で感じ、知らず喉を鳴らした。誠凜バスケ部全員から向けられる厳しい目に、それでも花宮は涼しい笑顔を浮かべたままだ。それが逆に不安感を煽る。 「さっさと出てけ、不法侵入者。コイツ等に手出しはさせねぇ」 リコがまさか霧崎と練習を組む訳がない。だとしたら花宮達は勝手に誠凜に入り込んだ部外者だ。早々に立ち去って貰わねばならない。厳しい表情の日向を嘲笑うかのように、花宮は自分の首に手を掛けた。 「残ァン念。これなーんだ」 「あ゛あ?」 これ。 花宮が首から引きずり出したのは、校内立ち入り許可証だった。事務所の担当の名前も入った、間違いなく本物だ。花宮の後ろに立つ霧崎勢も、よくよく見れば全員が首に証明書入れを掛けている。 「っ、てっめ……!」 「誠凜はまだ開設して日が浅いから、他校の生徒を招いて意見交流するって制度があるんだぜ?知らなかったろ」 ―そのどや顔に、ボールをぶち込んでやる! 衝動を、日向は必死に抑えた。こめかみの辺りがひきつり過ぎて、大変なことになっている自覚はあった。 「よし分かった。でもお前らはいらない。から帰れ」「ふは、分かってくれて嬉しいぜ。でも順平クンは欲しい。から帰らない」 自分の台詞をなぞるように返されて、ついに日向の堪忍袋の緒はブチ切れた。クラッチタイムだ。 「さっきから意味分からねぇことばっか言いやがって。俺が欲しいだ?物じゃねーんだよ俺は、殺すぞクソ麿眉毛」 クソ麿眉毛!ぶほぉっと花宮の連れの一人が口からガムを噴き出しそうになって慌てて口を押さえていた。花宮が無言で肘を入れている。床に崩れ落ちた身体をぐいぐい踏みつけながら、花宮はおもむろににカーディガンのポケットに手を突っ込んだ。 「ま、どーせ順平クンは俺の所に来ることになるしィ?残念だけど」 花宮がポケットから取り出したのは、四つ折りされたプリントだ。器用に片手で開くと、木吉を押し退け、日向の眼前に近付ける。 「『また、意見交流の為、誠凜からも貴校に生徒を派遣させて頂く。その場合の生徒は貴校の方針に合わせるものとする。』………っ!?」 にやぁり。花宮の唇がぐっと吊り上がる。淀んだ瞳とばっちり目が合って、日向は気が遠くなるのを感じた。 「霧崎第一高校代表・花宮真は、誠凜高校代表として、日向順平を我が校に招くこととする。宜しく、順平クン?」 ―――――――神様、こんなのあんまりだ。 キャパシティ・オーバーの予測過程 ------ 続かない |