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青年の名は、日向さんと言いました。年は大学生ほど、だったと思います。歴史が好きで、あの戦いが良いとか、あの武将が素敵だとか、ろくに理解もしていなかったであろう僕を尻目に、嬉々として語っていたのを覚えています。

前述した通り、僕はたいそう身体の弱い子供でした。学校は休みがち、体育もろくに出来ないような僕に、同学年の友達が出来る訳もなく、それを悲しいと思ったことはなかったけれど、とにかく、自分が何か言えば、何かしらの反応を返してくれる日向さんの存在が、嬉しくて嬉しくて、父や母にも話さないことを、何故か日向さんにだけは言えました。

その頃から、予兆はあったのでしょう。

僕は、日向さんのことを、誰にも言いませんでした。日向さんも、日向さんのいるあの家も、自分だけの秘密にしておきたかったのです。今日は何処に行ってきたの、母が食卓で尋ねてくる度に、××公園だよ、○○さん家の近くまで行ったよ、なんて嘘をついて、そう、良かったわね、と笑う母に、心の柔らかなところをちくりちくりと何度も刺されたような気分を味わいながら、それでも真実を話す気になれませんでした。

日向さんは、いつもあの家にいる訳ではありませんでした。週に二度三度、そんな程度でしたから、僕は家に向かうとき、いつもドキドキしながら道を歩きました。

「日向さん!」
「おー、よく来たな」

彼は、家にあがれば良いのに、と言いました。でも僕は、日向さんが、丁寧に、大切に磨きあげたその綺麗な場所に、ずけずけと入っていく勇気がありませんでした。そうしてはならない、と、何かが強く訴えているようにも感じていました。だから、僕があがるのは、縁側だけ。縁側にあがり、日向さんの出してくれたお菓子を食べながら、他愛もない話をして、夕方の鐘を合図に帰る。それが、僕と日向さんの日常でした。


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