新婦の指輪に似てね?それ | ナノ




黒子×火神



火神くん、あのね、約束ですからね、




「火神くん、これを貰ってくれませんか」

夕方だっただろうか、よく覚えてはいないけれど、差し出されたのが小さな箱だったのは記憶している。

「これから僕は、君にプレゼントを贈ろうと思います」

君の家、広いですよね、空き部屋がいくつもあるって聞きました、だから、一部屋、僕のプレゼントをしまっておく部屋にしてくれませんか。使っても構いません、壊したって良いです、でも、絶対に捨てないで下さい、必ず、必ず、君の側に置いておいて。

「その部屋が、いっぱいになったら、」

火神くん、ねぇ、

言葉通り、黒子からあらゆるものが贈られるようになった。驚く程高い時計から、その辺の石ころまで。ソファやフライパンまで贈られることもあった。高校を卒業し、黒子自身とは疎遠になっても、黒子からの贈り物は続いた。






「っ、しょ」

今日届けられたのは一セットの食器類だった。磨きあげられたフォークやナイフ、金縁の磁器は一目で値の張る品だと分かる。

「しかし、何処にいれるか……」

大量の贈り物で、部屋はもういっぱいいっぱいだった。何とか収納スペースを見つけ出しては置き、動かせるところは動かして、無理矢理ねじ込む。今回の食器類は何処に置こう、平らなところなんてあったかな…。
これでも随分減ったのだ。
1日3回の郵便が、2回に変わり、3日に1回になり、1週間に1回になり、1ヶ月に1回になり。そして今日、3ヶ月ぶりの届け物となった。




黒子には何度も尋ねた、この贈り物はなんなんだ、お返しを求められても、大したものはあげられないのに、と。その度に、黒子は、目を細めて微笑むだけ。明確な答えを得られることは一度としてなかった。




側にあった棚にスペースを見つけたので、食器セットはそこに置いた。あんまり扉を開けておくと雪崩が起きるので手早く閉める。閉めた扉に背を預けて座り込んだ。この作業は中々骨が折れるのだ…。
(招待状、届いたかな……)膝に置いた自分の左手には、銀色の輪が見える。自分は明日、結婚するのだ。
本当は、黒子に仲人になって欲しかった。女性が苦手だった自分が、心の底から愛しいと思えた人だったから、(少なくとも自分にとっては)親友の黒子に、おめでとう、と言って貰いたかったのだが。黒子からは、出席の有無も、祝詞の一つも無かった。

淋しくなかったと言えば嘘になる。高校時代の絆は偽りだったのか、と怒鳴り散らしたい気分だった。そんなんだから、黒子から贈られるプレゼントは、唯一彼と自分を繋ぎ止めてくれる糸のようで、蔑ろにも出来ず。久し振りに届いたプレゼントに、泣きたくなるほど嬉しい自分もいて。(そういえば…部屋がいっぱいになったら…なんだっけ?)



火神くん、あのね、火神くん。部屋がいっぱいになったら、僕は、君を、



「……部屋いっぱいになっちまったぞー……」

思い出せないけれど。黒子が隠し続けた答えが、そこにあるのだとしたら。


ピンポーン、

「!!」

こんな夜遅く、また郵便だろうか?今まで贈り物はどれだけ遅くとも9時までだった。今は11時近いというのに。何だ何だと玄関に向かう。
扉を開けば、そこに立っていたのは既に見慣れた某社の制服を着た、郵便配達員だった。

「火神、大我様、こちらに印鑑を」
「あ、はい」

差し出されたのは剥き出しの小さな箱だった。簡易包装すらされていないそれに違和感を感じつつ、確認書に判を押す。
邪魔だから、と一端退けていた箱が、視界に何度も入り込む。やっぱり、何か見覚えがあるような、手に取る前に、確認書を受け取った郵便配達員が、思い出したかのように慌てて箱を持っていった。

「申し訳ありませんが、中身をご確認して頂けませんか?」
「は?中身?」
「ええ、中身です。何分特殊でしょう、どうかお客様に確認して欲しい、と依頼人に頼まれておりまして」
「はぁ…?」

ぱか、簡素な音と共に箱が開く、中身は―…

「空っぽ…?」

中身が、無い。すっからかんだ。指輪ケースらしい、中の切り込みが虚しく鎮座している。

「なぁ、これ、」
「君の左手の指輪を入れるんですよ、此処に」
「――え?」

がつん。
扉の隙間に足が入る、そのままぐいと半身がねじ込まれ、手袋を嵌めた指に、左手を掴まれて、強く床へと押される。勢いで飛んでいった帽子から、色素の薄い髪が舞った。

「ねぇ、火神くん、約束、果たしに来たんです」

君を、

「部屋がいっぱいになったら、迎えに来る。約束したでしょう?」















「よ、テツ」「…お久し振りです、青峰くん」「来るなら言えよな、お前ずっと連絡ねぇんだもん」「申し訳ありません、忙しかったもので」「まー良いけどよぉ。…火神のヤツ、何やってんだか。呼んだ癖に、めんどくせぇヤツ」「まぁ、彼にも何かしらあったんでしょうよ」「…」「…」「ところでさぁ、テツ」「そのいじくってる指輪、何?」「ああ、これですか」くふふ。「宝物なんです、僕の」「へー…。ま、いいや。また話そうぜ」「はい。また」「…」「…」「…そういやそれ、何かオレ見たことあるような…」「なぁテツ…って、いねぇし」「……帰るか」


とこしえを慰めるなら唇で



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