その晩のことです。 ひたひた、ひたひた、と、何処からともなく足音が村中に響き渡りました。着いていた筈の火という火が消え、暗闇の中、村人は怯えて布団を被るばかり。足音は扉の前でぴたりと止まっては、遠ざかっていきます。そして、一つの扉の前で、完全に止まりました。躊躇無く扉が開かれます。中で横になっていた人は驚いた様子もなく、静かに目を開けました。 「遅ェよ、ダアホ」 朝が来るまで、誰もが震えが収まりませんでした。慄く慄く手で、扉を開けて、そして、海に点々と続く二組の足跡を見つけて、嗚呼と悲鳴を上げました。 それからというもの、この村では、漁に出かける度、海は荒れに荒れて、生きて帰って来る者は誰もいません。残されていた筈の赤い蝋燭も全てなくなって、いつしか村は滅びてしまいました。 この話は、これでおしまい。 2人の行方がどうなったのか、知る者は誰もいません。 |