キルア×ゴン 馬鹿だよ、馬鹿だ。 いつも言われていた言葉、眉を軽く寄せ、目を細めて唇の端だけを上げる、その顔が好きだった。なのに、今の顔は、ぐしゃぐしゃで、 「馬鹿、ゴンの、馬鹿」 血塗れの手で頬を拭うから、キルアの頬が真っ赤になる。白い肌に、それは良く映えた。きれいだなあ。 「なんで、一人にしないって、あれほど…」 ぱたぱたと降り注ぐキルアの涙だけが冷たくて、じくじくした痛みも、止まらない血も、何も変わらないのに、ひたひたと暗闇は近づいときてるのに、不思議なくらいおれはほっとしている。それはきっと、キルアがいるから。キルアの綺麗な海の色の瞳が、おれを写してくれてるから。温かな指先が、頬を撫でてくれるから。 「キ……」 「馬鹿野郎、馬鹿、やろ…」 ひきつる頬をぎゅっと上げて、精一杯笑ったつもりだった、今までの幸せを返すように、だけど、ああ、益々キルアは顔を覆って、ごめんねと謝ったら、笑ってくれたかな。もう答えは分からない。 (奪わないで欲しかった。) 枯れ葉がくるくると視界の端で舞う。まとわりついてくるそれを踏み潰した。彼が、大きな棺桶に腰掛けている。ずらされた蓋の隙間から食い入るように中ばかりを見て、此方に見向きもしない。自分からはその中身を見ることは叶わなかったが、嫌という程知っていた。 「愛していたんだ」 ぽつんと彼が口を開く。 注意しなければ聞き逃してしまいそうな、小さな声だった。 「大事だった。大切だった。何よりも傍にいて欲しかった」 手にしていた得物を握り直す。そうしなければ、あの日、あの子の肉を抉った感覚を思い出してしまいそうだった。ゆっくりと構えの姿勢をとる自分を知ってか知らずか、彼の言葉は続く。 「ずっと、ずっと、二人一緒だと、約束した」 かがみこみ、そっと彼に落とされた口付けは、神聖な儀式のようだった。 「今度はオレが迎えに行く。お前は、オレがいなきゃ……そうだろう?」 棺の蓋が閉じられる、ガコンという大きな音にはっとした時には、彼は、キルアは、此方を見ていた。 その瞳の虚無さ。底知れない、何も無い。ぞっとした。彼が人を殺すのを初めて見た時でさえ、其処にはまだ何かしらあったのに。 「なぜ?」 「っ」 上から舞い落ちる枯れ葉が邪魔だ。視界を覆う、キルアの姿が見えなくなっていく。 「どうして奪ったんだ、なぜ、どうして」 ざわざわざわざわ、木々が泣いている、鳴いている、キルアに呼応するように、最早誰にも見せまいと言わんばかりに、棺桶に色をなくした葉が降り積もっていく。がむしゃらに腕を振り回しても、葉は消えない。それどころかますます渦を巻いて、迫ってくるようだった。 「どうして許したりなんかしたんだろう。どうして庇ったりしたんだろう。どうしてお前は、愛したりなんかした」 葉の擦れ合う音が大きすぎて、聞こえない、キルアがぱくぱく口を動かしている、分からない、聞こえやしない。 辛うじて隙間から見えた最後の彼は、笑っていた。 「本当に、馬鹿だ」 オレも、あいつも、お前も。 「だから、もう、全部、なくなっちまえ」 ぼくらの世界が壊れていくね (彼を愛する彼が、彼に愛される彼が、この上もなく愛しく、また、自分を愛してくれない彼が憎らしかったのです。向けた刃先は狂い、愛した筈の肌を抉り、私の手は赤く染まるだけ。驚愕に濡れる青の瞳は最早私を写しはしませんでした。私が、私自身が殺してしまった、いいえ、彼に愛された彼が持っていってしまったのです。最期にこちらをじっと見つめていた、黒の瞳が、私を離さないと、永遠に囁いて消えません。あの散りいく葉の中で見た、閉じていた筈の棺桶から突き出した指先、それを握る彼の背中、以降私が彼らを見ることは、ありませんでした) ?→キルゴンでもありキルゴン←?でもある お相手はお任せします |