違和感 | ナノ



(もしもサムが、ディセプティコン側の人間だったら)


大丈夫か、と降ってきた声に、辛うじて引っ掛かっていた意識が目を覚ます。ノイズがかった視界の中、此方を不思議そうに見つめる老人。こりゃあ酷いな、着陸にでも失敗したか、と雪を払う掌、敵意は感じられない。逃げないのか、恐ろしくないのか。眼鏡の奥の瞳が瞬く。なぁに、こんな冒険ばかりしているから、厄介ごとには慣れっこでね。そりゃあ喋る鉄の塊なんてびっくりだが、100m下の崖に落ちた時と比べりゃ、まだまだ小さいもんさ。
そう笑った人間の目は、暖かなハシバミ色をしていた。





ディセプティコンがこの惑星にいると聞いてから久しい。奇しくもそこからはオールスパークの波長も感じていて、最悪のシナリオもあるかもしれないと、決死の思いで地球に降り立った。それがどうだ。人間たちは普通に生活している。ディセプティコンの姿は不自然なほど何処にも見えなかった。

しかしそれは悲しいかな杞憂だった。

途中で出会ったバリケードとの交戦を終えたバンブルビーと合流し、目当ての人物の通学路で立ち塞がる。不思議そうに首を傾げるサミュエル・ジェームズ・ウィトウィキー、彼こそがオールスパークの鍵を握る。
直ぐにでも問い詰めたいが、町のど真ん中、場所が悪すぎる、少々乱暴だが気絶させて車内に引きずり込み、離れの廃工場で解放した。飛び起きたサムは慌てて逃げ出そうとしたが遅い。
素早く移動したジャズが、取り敢えず確保するかと腕を伸ばす寸前に、

「…スタースクリーム!!」

弾丸が雨のように降ってきた。
咄嗟に距離をとったジャズとサムの間に、天井を突き破って見慣れた機体が滑り込む。身構えるオートボットには目もくれず、変形したスタースクリームは足元に縋りつくサムを掬い上げると、掌に大事に抱き込んだ。

「スタースクリーム…怖かったあぁ…」
「よしよし、俺様が来たらもう大丈夫だ…バリケードめ、しくじりやがって」

どういう光景だ、これは。
これが、人間を虫けらと公言してやまないディセプティコンの言動か?違和感を拭うようにアイアンハイドが吠える。

「どういうことだ!サムを離せ!ディセプティコンめ!」

名前を呼ばれたサムは益々縮こまる。どうして僕の名前を、と震える体を、スタースクリームの長い金属の指が慰めた。その手つきとは裏腹に、アイアンハイドたちを睨む視線は冷たい。

「オートボット如きがサムを馴れ馴れしく呼ぶな」

何だと、といきり立つアイアンハイドを手で制しながら、オプティマスは一歩前へ踏み出す。
疑問点が多過ぎる。殆ど見当たらないディセプティコンも、スタースクリームに身を預けるサムも、オールスパークも。

「サムと接触している以上、お前たちはオールスパークに何かしら関与している筈だ。それなのにオールスパークはこの惑星から波長を出し続けている。今も。お前たちが、オールスパークを前に何もしない訳がない」

スタースクリームは何も言わない。それは肯定だった。遅かったのか、とラチェットが忌々しげに舌打つのが聞こえる。

「だが、もしそうならこの惑星はとっくに滅びている筈だ。何故何もしない?一体何を企んでいる?」

刹那、それまで黙っていたスタースクリームが、突如カメラアイを光らせた。細い光が映像を映し出す。途端辺りは白に染まった。展開についていけないオートボットを置いて、映像は進む。

銀世界、向こうに氷に埋もれたメガトロンと、人間の姿があった。人間は言われるままメガトロンの胸部に触れる、そしてそこから零れてきた小さな箱を、両手で受け止めた瞬間、それは光り輝くと一面を見渡す限りの草原に変えてしまった!唖然とする人間の手から箱が形を失い、空気に溶けていく。氷の拘束から抜けおおせたメガトロンが、人間の前に膝をついて、その指先を取り上げると、人間から甲高い悲鳴が。機嫌良さげに笑うメガトロンとは対称的に、半泣きの人間の掌には、嫌と言うほど見知ったディセプティコンマークが刻まれていた。

「メガトロン様は、この人間をいたく気に入ってね。未来永劫、子孫まで見守ると決めたのさ」

まぁ確かに、アイツはそうさせるだけの男だったよ、とスタースクリームは懐しそうに呟いた。

「あのハシバミ色に、メガトロン様は奪われたのさ」

ハシバミ色とは、あの人間の瞳のことだろう。自分たちの赤と青のどちらにも属さない、暖かな色。その奥の光は、幾ら代を重ねても消えることはない。そう、目の前のサムだって。

「!!」

此方を見つめる目は、さっきの人間に生き写しだ。何故気がつかなかったのだろう。だとすれば、全てが辻褄があう。

「まさか…オールスパークは、」

にや、とスタースクリームが唇を吊り上げた。

「そうとも、オールスパークは遠い祖先から変わらぬ瞳と共に受け継がれ、ウィトウィキーに脈々と流れてきた。それを守ってきたのは俺様たちさ」

言うや否や、鈍い金属音が響き渡った。背後から殴り飛ばされたサイドスワイプが壁に激突し崩れ落ちる。
遅かったですねぇ、とスタースクリームが低く笑い、サムがぱっと表情を明るくした。

「メガトロン、みんな!」

次々に、路上にあった自動車が、トラックが、変形していく。目は赤く、爪は鋭い。

「サムこそがオールスパーク。護るべき人間だ」


きみが生きる世界をぼくは守りたいと思う





誰うま^▽^
メガ様×祖先みたいになってしまった!笑
どうせサムが「仲間なんだから喧嘩は駄目だ!」って和解して結局変わらないだろうな…。キュン

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