それでもいいと、なぜ笑うんだ(aoex) | ナノ


志摩×勝呂

まだ奪うのか、と、囁くのは、だれ。

夕方、誰もいない教室の隅。伸びる影を横目に、勝呂は志摩からのキスを受け入れていた。
(囁く声が消えない。)
まだ奪うのか、と。

「好きや、むっちゃ好き…」

熱に浮かされたように、勝呂に跨り、首や額に唇を落とす志摩は、何も知らないのだ。自分がどれだけ浅ましくて、卑怯か。

幼い頃から一緒だった。上京し、恋人になって、『おれの人生、坊にあげます』と、はっきりと宣言された夜。眠る志摩の横で、勝呂はひっそり泣いた。
胸を締めつける心地好さと、無力さに泣いた。もう、志摩から、奪うものも無いくらい、奪い尽くしたと、泣いた。

「坊、好き、好きやで」
「志摩…っ」

その掌から奪うだけならば、いっそ。


あいか


哀歌、愛歌、あいか。

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