結び目をどうか | ナノ



男鹿×古市


からりと晴れた日のことだった。
男鹿が死んだ。恐怖につかれ道路に飛び出した不良を庇って死んだ。魔王らしくもない行動に、笑いすら出た。


「良いのか、本当に?」
「はい」

きっと男鹿を救っても、男鹿は決しておれを許さないだろう。そういうやつだった。
だけど、おれは、智将であるとか以前に、お前のたった一人の親友なのだ。ずっと、その強さと、真っ直ぐな性格に歪んだ解釈をされ続けてきた幼なじみの、やっと掴んだ幸せを、見捨てられないお人好しなのだ。

ヒルダさんから差し出された不思議な道具―なんでも、過去の自分と話せるらしい―を、目の前に翳す。
一度しか使えないこと、救えるのは死んだ男鹿ではなく別世界の男鹿であること。

「そして、必ず誰かが死ななければならない。男鹿の代わりに、失われる命がなければならない」





男鹿。





その日は朝から雨が降っていた。
古市がいない帰り道、いつものように不良どもに絡まれた。後ろを気にする必要のない喧嘩は楽だが、どこかもの足りない。と、びびったらしい男が錯乱気味に駆けていく。ちょっと待て、その先は車道じゃねえか。とっさにその背を追い掛けた。案の定奴は赤信号に飛び出していく。腕を伸ばそうとして、その男が急にこっちに倒れ込んできた。いきなりのことに歩道に倒れる寸前、こちらに両手の平を見せた銀髪が煌めいた。

「ふる……」

言葉になる前に、トラックが目の前を通り過ぎていった。
絶叫。





「…ヒルダ、力を貸してくれ」

憔悴しきった顔の中で、目だけを異様に輝かせる奴の姿は、悪魔である私ですら軽く恐怖を覚えた。

こいつらは互いが互いに大事過ぎて、自らの命を投げうっても守りたいくらい好きで、その糸はがんじがらめになってしまった。最早手のつけようもない。男鹿と古市は、もう決して、いかなる選択をしようとも、永遠に二人で生きることはない。できない。

「良いか、これは――」


愛しのバッド・エンド



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